特集 step up BIM ⑤

踏み出すためのきっかけを与えよう 
山上 健さん

 BIMを学び始めた学生、BIMに挑む実務者、そしてBIMへの再挑戦を誓う設計者たち。さまざまな思いを抱きながらBIMと向き合おうとしている。グラフィソフトジャパンが主催するオンラインBIM教育プログラム「BIM Classes」の講師たちも同じようにBIMとの出会いがあり、悩みながらも一歩ずつBIMを自分のものにしてきた。特集「step up BIM」では、7人の講師それぞれの思いを通して、BIMとの向き合い方を探る。


 「一歩前に踏み出すためのきっかけづくりを大切にしている」と話すのは、山上建築設計(愛知県春日井市)を主宰する山上健さん。建築家として活動しながらBIM Classesの講師を務めるほか名古屋市立大、名城大、愛知産業大の非常勤講師としても教壇に立つ。「学生と実務者では教えるポイントも大きく違ってくる。どうステップアップをしていくことが最善であるかを見極めながら、きっかけを与えることが講師の役割」と意識している。

「きっかけを与えることが講師の役割」と語る山上さん

 山上さん自身がArchicadを使い始めるきっかけになったのは、オーナー住戸付き賃貸マンションの建設を計画していた高校時代の後輩夫婦から「どんな空間になるのかイメージできずとても不安だ」と外部に委託している設計図面について相談された時のことだ。当時愛用していたCADソフトを使って図面から3次元パースを描き、後輩夫婦に提供した。「設計者として、施主がきちんとイメージできる情報を提供しなければいけない」と、視覚化の必要性を痛感する出来事だった。そこから使い勝手の良いソフトを探し始め、辿りついたのがArchicadだった。

 当時は今ほど簡単にCG(コンピュータグラフィック)が作れる時代ではなく、所属していた伊藤建築設計事務所でも、施主に対しては設計の節目ごとにだけ、CGパースやスケッチを提示していた。「これからはこういったソフトの時代が来る」と、所長に直談判し、2008年からArchicadの導入がスタートした。「いくつかの候補の中から、直感的に設計できる馴染みやすさが決め手となり、それからは僕自身、Archicadを愛用し続けている」。施主にパースを提供するペースは飛躍的に早くなった。

 独立したのは2011年1月のことだ。名古屋大学工学部建築学科時代に「将来は建築を目指そう」と決めた時から「いつか独立したい」と考えていた。「設計事務所をしていた父の影響もあった」。これまでに10作品ほどを手がけている。住宅を軸に活動しながら舞台美術なども手がけており、現在は鉄道の管制施設と駅舎の設計に携わっている。

「Archicadでなければ攻めた土地の使い方はできなかった」と振り返る住宅プロジェクト

 旗竿の奥まった敷地で高低差が8mにおよんだ住宅プロジェクトは「Archicadでなければ、ここまで攻めた土地の使い方はできなかった」と振り返る自信作の1つだ。周囲からどう見られることになるかを知りたいという施主の思いをくんでアイレベルによる細かなモデル検証も実施した。「BIMは万能ではなく、単なる道具の1つである。模型にも良さがあり、自然光の入り方や場の空気感などを直接確かめる場合には欠かせないツールである。設計者にとってBIMを使うことが目的ではない。最適な設計を行うため、どんなツールを使うかが大事になる」

 そうしたこだわりは、講師の時にも存分に表れている。「学生にはあえて正しいBIMの使い方ではない部分も含めて教えるようにしている」。本来、BIMにはモデルを変えれば図面が変わるデータの連動性があるが、学生向けにはそれよりも「意図する建築表現ができる」ことを重要視している。「『正しいBIMデータ』を作るには、相応のスキルとそれを身に着ける時間が必要になるが、学生にとって必要なのはそこに時間をかけることではない」と付け加える。

 「学生にとっては、実務に直結するBIMのスキルよりも、設計そのものを学ぶこと、課題で自分の思い描いたデザインを表現して他者に伝え、批評を受けることが重要である。そのための手段として、いかにして『BIM』にとらわれずにArchicadというツールを使っていくかを教えている。当然、BIMの概念や社会での位置づけも伝えているが、BIMの技術を習得することよりも、設計する楽しさを知ってもらうことを大切にしている」。学生が試行錯誤しながら設計を学ぶ中でBIMを理解していく流れをつくることが山上さんのこだわりだ。「きっかけを与え、後押しすることが僕の役割」と考えている。

Archicadユーザーグループ中部代表も務める

 逆に実務者には、Archicadを使いこなすためのアドバイスを徹底している。「僕はとても世話焼きで、テキストにない余計なことまでしゃべってしまい、毎回つい時間が足りなくなってしまう」。Archicadユーザーグループ中部代表も務めていることから、他のユーザーから相談される機会も多い。「ちょっとした機能や設定の仕方を知るだけで、作業がとても楽にできることが意外に多い。それだけArchicadが多機能である裏返しだが、できるだけ最良の方法を伝えたいという思いがあり、いつも熱が入ってしまう」

 ユーザーグループの勉強会では「Archicadの設計思想まできちんと理解してもらう」よう伝えている。「操作方法を単に覚えるのではなく、機能自体の考え方まで含め、この機能がどこにつながっているか、その関係性まで知っておくことで広がりのある使い方ができるようになる。テキストにない部分にかなりの時間をかけて伝えることが多いのも、背後にある考え方を理解することが、応用力につながると考えているからかも知れない」

Archicadの設計思想まできちんと理解してもらうよう伝えている

 4月からBIM Classesでは、講師が直接コーチングする「Premium」プランが新設された。「Archicadの操作について詳しく伝えるというよりも、受講者の悩みを踏まえてどんな講座を集中的に学べばいいかをアドバイスする場になる」だけに、場合によっては組織内に「BIMをどう推進すべきか」というような悩み相談も出てくる。

 「BIMという言葉に踊らされず、目の前のできる事から取り組んでほしい。全てを細かくモデリングするなど、BIMをやるために余計な手間をかける必要はない。バランス感覚を持つことが何よりも大切だ。BIM推進役は組織をどれだけ巻き込めるかを常に意識して取り組んでほしい。外部のコンサル会社に入ってもらい、目標に向かって一歩ずつステップアップしていくことも近道の1つだろう」

特集 step up BIM

(1)「 Archicadを好きになろう 」木島 裕太郎さん

(2)「 過程を大切に少しずつ先に進もう 」奈木 紀子さん

(3)「Archicadの強みを引き出そう」小川 裕香さん

(4)「支え合える仲間と一緒に前へ進もう」新 貴美子さん

(5)「踏み出すためのきっかけを与えよう」山上 健さん


 BIM Classes:グラフィソフト製品を中心にBIMを体系的に学べるオンラインスクール。初級から上級まで段階的に設計されたカリキュラムにより実務に即したBIMスキルを無理なく身につけることができる。ビデオ講座でArchicadの主要機能をじっくり学べる「Standard」プランに加え、講師によるマンツーマンコーチングや質問クラスを通じて理解を深められる「Premium」プランで構成する。受講者のレベルや目的に合わせた柔軟な学習環境が、多くの実務者に支持されている。詳しくはこちら

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