連載 BIMの先にある問い(3)

設計検討の進め方が変わる 
繁戸和幸 安井建築設計事務所 理事

「何を、どう検討するか」が変わる

前回は、生成AIによって「イメージから3Dモデルや図面へ向かう」という、これまでとは逆の方向から設計を進められるようになってきたことを、事例を交えて紹介しました。

このように、AIによって設計プロセスの選択肢は広がりつつあります。一方で、私がいま注目しているのは、何を調べ、何を試し、どのように確かめ、その結果から次に何を考えるのかという、設計検討の進め方そのものです。

AIが設計ツールを動かす

現在、AIと建築設計ツールを連携させる検証を、いくつか行っています。

例えば、自然言語で「壁に窓を等間隔に配置して」と指示すると、AIがその内容を解釈し、必要な操作を考えてRevit上でモデリングを行います。また、敷地の住所と敷地図を与えると、AIが必要な公開情報を調べ、敷地条件を整理しながら、Rhino上で3Dの建築可能ボリュームを生成する、といった検証も行いました。

このような作業や検討は、既存の3Dソフトを操作して行うこともできますし、AIがその場でプログラムコードを書き、Webブラウザ上で動作するアプリそのものをつくって行うことも可能です。つまりAIは、目的に応じて必要な情報を集めるだけでなく、その情報をどう使い、どのような手段で検討するかまで判断するようになっています。

図3-1 「設計ツールを操作するAI」から「必要な段取りを組み立てるAI」へ(第1回掲載図の再掲

「操作するAI」から「段取りまで担うAI」へ

これまでのCADやBIMでも、スクリプトやパラメトリックモデリングによる自動化は行われてきました。ただし基本的には、人間があらかじめ処理のロジックや手順を組み立て、それをコンピュータが高速に繰り返すものでした。

AIエージェントでは、この関係が少し変わります。人間が伝えるのは、「何をしたいのか」という目的や条件です。AIは、そのために何を調べるべきか、どのような方法があるのか、どのツールを使うのかを考え、必要に応じて処理手順を組み替えます。

AIが担っているのは、ソフトウェア上の単なるクリック作業ではなく、これまで設計者が頭の中で行っていた、クリックとクリックの間にある「段取り」なのです。

1年かかっていた開発が、数時間で可能に

私自身、この変化を強く実感した出来事があります。若い頃、私は社内で日影計算プログラムの開発に携わっていました。太陽位置を算出し、時刻日影や等時間日影計算を行うエンジンだけでなく、設計者のための操作画面やCADとの連携機能なども含め、実用的なシステムとして完成させるまでに、およそ1年を要しました。

ところが最近、生成AIと対話しながら、改めて日影計算ツールを作ってみました。すると、時刻日影や等時間日影の計算・作図など、日影検討に必要な基本的な機能を備えたツールが、数時間で形になりました。

もちろん、両者は同じものではありません。かつて開発したのは、多くの設計者が実務で利用することを前提とした汎用的なシステムです。今回AIと作ったものは、確認申請に利用できるだけの精度は確認していませんが、それでも、その後手を入れることで、かなり実用的なレベルまで作り込むことができました。

図3-2 かつて開発した日影計算プログラムと、AIとともに作成した日影計算ツール

これは、私にとってかなり衝撃的な体験でした。驚いたのは、単に開発時間が短くなったことではありません。これまで専門知識を身につけ、時間をかけて作ってきた「道具」そのものを、設計者自身がAIと相談しながら、その場で作れるようになったことです。

これはプログラム開発だけに起きている特殊な変化ではなく、これから多くの設計者も、似たような経験をすることになるのではないかと感じています。

必要な「道具」は、その場でつくる

その後、車両軌跡駐車場自動配置、簡易的な風環境解析人流解析ツールの試作も行いました。

図3-3 生成AIと試作した設計初期の検討ツール

もちろん、これらは専門的な解析ソフトと同等の精度を保証するものではなく、現時点では設計初期の「あたり」をつけたり、案を比較したりするための簡易的な検討ツールです。それでも、これまでなら専用ソフトや専門知識が必要だった検討であっても、AIに工学理論や計算方法について相談しながら、そのプロジェクトで必要な仕組みを短時間で組み立てられるようになってきました。そこで感じたのは、設計初期の検討では、汎用的で完成されたアプリケーションをあらかじめ用意しておく必要はなくなるのではないか、ということです。

設計の初期段階で重要なのは、すべての検討について、最終成果物に求められる精度で確定的な結果を出すことではありません。

「この案には、どんな課題がありそうか」

「A案とB案なら、どちらをより深く検討すべきか」

「条件を変えると、結果はどう変わるのか」

そうした問いに対して、次に何を検討するかの判断材料を、できるだけ早く揃えることが重要です。

必要ならAIに検討方法や工学理論について相談し、情報を調べてもらう。プログラムを書かせて簡易シミュレーションを行い、結果を可視化する。そして、その結果を見ながら条件を変え、もう一度試してみる。

もちろん、AIが生成したプログラムだからといって、必ずしも正しいというわけではありません。しかし、プログラムコードがあれば、どのような計算を行っているのか、その過程や結果をたどって確認することができます。また、AI自身に計算方法や根拠を説明させたり、テストを行ったりしながら、プログラムそのものの妥当性を確かめることも可能です。重要なのは、AIが出した結果をそのまま信じるのではなく、計算の中身をたどり、検証可能な状態で使うことです。

AIとの対話が「設計環境」になる

これまで設計者は、目的に応じて様々なアプリケーションを使い分けてきました。BIMソフト、3Dモデラー、解析ソフト、表計算、画像編集、ビジュアライゼーションツール。それぞれの操作方法を覚え、設計者自身がソフトウェアの間を行き来し、その結果を自ら統合しながら設計を進めてきました。

しかし、AIエージェントが様々な情報やツールとつながれば、少し違う形も考えられます。設計者がAIと対話を続け、その中でAIが必要に応じて情報を収集し、プログラムコードを書き、BIMソフトや3Dモデラーを操作し、シミュレーションを行い、結果を可視化し、報告書やプレゼンテーションとしてまとめていく。つまり、設計者とAIとの対話そのものが、その時々で必要な情報やツールが統合された「柔軟な設計環境」のようになるということです。

図3-4 従来の設計環境と、AIとの対話を中心とした設計環境

これからは、検討したいことに合わせて、AIと一緒に必要な手段そのものを組み立てながら設計を進めることが、当たり前になっていくのかも知れません。そうなれば、私たちが現在「設計ツール」と呼んでいるものの姿や役割も、かなり変わっていくでしょう。

一度で答えを出すのではなく、試し続ける

こうした設計検討では、AIに一度質問して答えを得れば終わり、というものではありません。

モデルをつくり、結果を見る。条件を変え、もう一度試す。必要なら別の方法を調べ、検証方法そのものを組み替える。

こうした試行錯誤を繰り返す仕組みそのものを設計する考え方は、最近では「Loop Engineering」と呼ばれることもあります。重要なのは、AIに一度で正解を出させることではなく、試行と検証を繰り返せる仕組みをつくることです。この考え方は、建築設計のプロセスとも、どこか似ています。

増えるのは「案」だけではない

多くのデザイン案を短時間で生成できることは、生成AIの特徴の一つです。しかし、私がより大きな可能性を感じているのは、検討できる「案」の数だけではありません。検討できる「問い」そのものが増えることです。

日照はどうなるのか。風はどう流れるのか。別の配置にすると何が変わるのか。もっと違う評価方法はないのか。

これまでは時間や経験則によって早い段階で切り捨てていた案だけでなく、専門性やツールの壁によって十分に検討できなかった領域まで、設計検討の対象を広げられる可能性があります。

かつて将棋や囲碁のAIが、人間の定石とは異なる手を探索し、新しい戦略を生み出したように、建築設計でも、人間が無意識のうちに狭めていた検討の範囲を越えて、新たな可能性を見つけられるかも知れません。

フロントローディングを現実に近づける

この変化は、BIMで長く語られてきた「フロントローディング」とも深く関係します。設計初期で重要なのは、すべてを早い段階で確定することではありません。計画上の課題をできるだけ早く見つけ、複数の方向性を比較し、クライアントや関係者と話し合いながら、早期に意思決定を行うための材料を揃えることです。

これまでは、その判断材料を得るためのモデル作成や解析、可視化そのものに多くの労力が必要でした。そのため、「検討した方がよい」と分かっていても、時間や費用、専門性などの理由から、十分に行えないこともありました。

AIとの対話の中で、条件整理からモデル生成、簡易解析、可視化、比較までを短いサイクルで繰り返せるようになれば、設計初期からより多くの判断材料を揃えられるようになります。AIによって前倒しされるのは、作業そのもの以上に、「判断するための材料」が揃うタイミングなのかも知れません。それは、BIMで長く語られてきたフロントローディングを、より現実的なものにすることにもつながります。

「完成案」だけでなく「検討過程」を共有する

さらに、こうした設計プロセスは、クライアントや関係者との合意形成にも影響します。これまでは、設計者が様々な検討を行った末に、絞り込んだ案を提示することが一般的でした。そのため、「なぜこの案を選んだのか」という検討過程の多くは、設計者の頭の中だけに残りがちでした。

しかし、複数の選択肢や条件の違いを可視化できれば、「完成した案を説明する」だけでなく、「なぜこの案を選んだのか」という検討過程そのものを共有することができます。設計者だけが答えを持って説明するのではなく、判断材料を共有しながら、クライアントや関係者と一緒に方向を決めていく。AIは、そのための判断材料を増やす役割も担うようになると考えています。

では、何を「良い建築」とするのか

ただし、ここで一つ大きな問題が残ります。AIが多くの案を生成し、様々な条件を比較し、必要な検討方法や道具まで用意できるようになったとしても、建築設計には将棋や囲碁のような単一の勝敗ルールはありません。

構造的な合理性、コスト、環境性能、使いやすさ、街並みとの関係。そして、その場所に身を置いた時の心地よさや感動。建築には、時に相反し、数値だけでは評価しきれない多くの価値があります。

AIによって「どのように検討するか」という制約が少なくなればなるほど、私たちはむしろ、「何を検討するのか」「何を目指すのか」「何を良いと判断するのか」を、これまで以上に問われることになります。

そして、その基準も、設計者だけで決めるものではないのかも知れません。

次回は、AIによって誰が、どのように設計に参加できるようになるのか、広がり始めた「設計参加のかたち」について考えます。

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