連載 BIMの先にある問い(2)

設計プロセスは逆転するか 
繁戸和幸 安井建築設計事務所 理事

イメージを空間へ広げる

前回、生成AIの進化は、単なる業務の時短や省力化にとどまらず、「設計する」という行為そのものを変える可能性があると書きました。

では、具体的に何が変わっていくのでしょうか。

私がその可能性を強く感じたのが、これまで多くの時間と手間を必要としていた、思い描いたイメージを具体的な空間へ展開するプロセスです。

図2-1 AIによって広がる設計プロセスの選択肢 (「シーンから建築を考える—建築情報学会FES 2026での実践」を元に作成)

イメージから3D

例えば、設計初期のスタディでは、画像生成AIに設計条件やコンセプトを与え、敷地写真やGoogleストリートビューなどを参照させながら、周辺環境に馴染む外観や、光の入り方、素材感などを含む空間イメージを短時間で多数生成できます。

しかし今では、パースや空間イメージを短時間でつくれるだけでなく、そのイメージから3Dモデルまで再構築できるようになっています。

さらに、1枚の画像から家具や建築要素を認識・切り分け、それぞれを3D形状として取り出す技術が登場しています。

また、画像全体から奥行きや空間構成を読み取り、部屋などを3次元空間として再構築する試みも進んでいます。実際の検証でも、1枚の室内写真をAIに与えると、単に見た目をなぞるだけではなく、例えば畳の一般的な大きさや柱間などの情報を調べ、それらを手掛かりに部屋の寸法や空間構成を推定し、3Dモデラー(Blender)上で3Dモデルを再構築しました。

図2-2 写真から3D空間を再構築した事例

現時点では、寸法の精度やディテールにはまだ課題があります。しかし私自身、こうした試行を繰り返す中で注目したのは、「今、どこまで正確にモデル化できるか」以上に、これまで人間が行ってきた、イメージを読み取り、情報を補い、空間として解釈し、3次元化する一連の行為を、AIが担う可能性が具体的に見えてきたことです。

3DモデルとBIMの間にあるもの

では、生成された3DモデルをそのままBIMへ変換できるのでしょうか。ここには、まだ技術的なギャップがあります。

3Dモデルが主として「形」を表すのに対し、BIMでは、壁、床、建具といった建築的な意味に加え、寸法、材質、仕様、他の部材との関係など、設計に必要な情報を付与する必要があります。さらに建築全体となれば、構造や法規、施工性などとの整合も求められます。

そのため、現時点では建築全体を「イメージ → 3D → BIM」へと一気につなげられるわけではありません。

一方で、こうして取り出した家具や什器、比較的単純な部材などの3D形状であれば、属性情報を付与し、BIMのオブジェクトとして利用することも可能です。

そして、3D形状をBIMデータとして扱えるようになれば、図面、数量、解析、レンダリング、さらにはデジタルファブリケーションなど、既存のデジタル設計・生産プロセスへ展開できます。

つまり、まだ途中段階ではありますが、

言葉やスケッチ → 理想のイメージ → 3D形状 → BIM

という新しい設計プロセスの選択肢が見えてきたのです。

逆転したのは、設計者の「思考」ではない

設計者であれば、完成した空間を思い描きながら、平面、立面、断面、スケッチ、模型、3Dモデルなどを行き来して設計してきたはずです。決して図面から順番に、ウォーターフォール型で建築を組み立ててきたわけではありません。

新しいのは、その思考方法ではありません。

図2-3 AI画像は「答え」ではなく「空間を考える素材」(「シーンから建築を考える—建築情報学会FES 2026での実践」を元に作成)

従来、頭の中にある空間イメージを他者に伝えるには、スケッチを描き、図面を起こし、模型や3Dモデルをつくり、パースへ展開するなど、相応の時間と作業が必要でした。

生成AIによって変わったのは、理想とする空間のイメージを、設計の初期段階から具体的に表現し、他者と共有し、さらにそこから3Dへ展開することが現実的になってきた点です。

AIが設計プロセスを逆転させたのではありません。

AIによって設計プロセスの選択肢が広がり、従来とは逆の方向から設計を進めることも可能になりつつある。

これが、ここでいう「逆転」の意味です。

合意形成を前倒しする

このような設計の進め方がもたらすもう一つの大きな変化が、コミュニケーションと合意形成のフロントローディングです。

これまでは、クライアントや関係者が具体的な空間イメージを共有するためには、ある程度設計を進める必要がありました。そのため、設計者とクライアントの間で「どのような建築や空間になるのか」という認識のずれが残り、後の段階で修正や手戻りにつながることもあります。

しかし、空間の佇まいや光、人の過ごし方といったイメージを初期段階から共有できれば、「何を目指すのか」を早い段階から具体的に議論できます。そして、そのイメージを共通の手掛かりとして、「それではこれを現実の寸法や構造、法規の中でどう成立させるか」といった、具体的な検討を進めることができます。

もちろん、AIが生成した魅力的な画像や3Dモデルが、そのまま建築として成立するわけではありません。構造、環境性能、コスト、法規などを検証し、現実の建築へ落とし込むには、専門家による判断が不可欠です。

それでも、これまで設計者の頭の中にあったイメージを早い段階で表現・共有し、具体化できるようになったことは、設計プロセスの選択肢を大きく広げます。

では、その先はどうでしょうか。イメージから3Dへ展開できるようになったとして、私たちは、その後の条件整理、モデリング、解析、比較といった設計検討を、これまでと同じ方法で進め続けるのでしょうか。

次回は、AIが設計ツールを操作し、必要な情報や処理、さらには検討のための環境そのものを組み立てている事例から、設計検討の進め方に起きている変化について考えてみたいと思います。

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