連載 BIMの先にある問い(1)

BIMの先に、まず見えたもの 
繁戸和幸 安井建築設計事務所 理事

Modelingの先には何があるのか

建築設計は、道具や情報技術の進化とともに、その姿を変えてきました。

振り返れば、私たちの設計環境の歩みは、大きく3つの時代に整理することができます。

  • Drawing(手描き):ドラフターに向かい、手で線を描きながら、空間のイメージを紙の上に表現していた時代。
  • Drafting(CAD:コンピュータ上で線や図形を扱い、図面の作成・編集・複製・管理の効率を飛躍的に高めた時代。
  • Modeling(BIM:建築を単なる「線や図形の集合」としてではなく、形状と属性情報を統合した「情報モデル」として扱う時代。

手描きからCAD、そしてBIMへ。私たちは道具をアップデートしながら、より効率よく、より高い精度で建築を表現し、情報を共有する方法を洗練させてきました。

では、この「Drawing → Drafting → Modeling」の先に来るものは、一体何なのでしょうか。

図1-1 その先にあるものとは?

以前、私は一つの答えを出していた

この問いについては、以前、自分なりの答えを出したことがあります。2026年3月、私のnoteで公開した「生成AIは建築設計をどう変えるか(第2版)」の中で、生成AIが将来の建築士事務所や建築士の役割、職能にどのような影響を及ぼすのかを考察しました。そこで、AI時代の設計者の役割として私が考えたのが、「Orchestrating(オーケストレーティング)」という姿です。

図1-2 2026年3月時点で考えていた、AI時代の設計者像
(「生成AIは建築設計をどう変えるか(第2版)」を元に作成)

AIやデジタル技術が多くの作業を担うようになれば、設計者の役割は、自らすべての図面やモデルをつくることから、人、AI、専門技術、法規、コスト、環境性能、社会的要求など、多様で時に相反する条件を調整しながら、一つの建築へとまとめ上げていくことへ移っていく。いわば、自らすべての楽器を演奏する「演奏者」から、全体をまとめ上げる「指揮者(オーケストレーター)」へ。私はそれが、BIMの先で設計者に求められる役割ではないかと考えていました。

本当にそうなのか

ところが、それを一つの結論として公表してから、まだ半年も経っていません。それにも関わらず、ここ数ヶ月、AIエージェントやAIのコーディング能力について実際に技術検証を重ねるうちに、私は早くもその考えを問い直すようになりました。

生成AIが建築業界でも注目を集めた当初は、「魅力的なパースを短時間でつくれる」「文章やプレゼンテーション資料を効率よく作成できる」といった、従来の業務を部分的に助ける便利なツールとして捉えられていました。しかし、現在起きている変化は、それだけではありません。

例えば、自然言語で「壁に窓を5つ配置して」と指示すると、AIが内容を解釈し、必要な操作手順を考え、BIMソフト(Revit)を直接操作してモデリングすることができます。さらに、敷地の住所と敷地図を与えると、AIが必要な情報を自ら判断し、国や自治体などの公開情報から法的条件を取得しながら、3Dモデラー(Rhino)を操作して建築可能なボリュームを生成する、といったことも可能になっています。

図1-3 情報収集から設計ツールの操作まで担うAI

ここで重要なのは、AIが3Dモデルをつくれるということではありません。

目的を与えると、自ら必要な情報を探し、使うべきツールを選び、処理の手順を組み立て、作業を進めていく。

こうした試行を重ねる中で、AIが今後、設計の進め方そのものに深く関わっていく可能性を、以前より強く感じるようになりました。つまり、これまで人間が担うものだと思っていたOrchestratingそのものに、AIが入り込んでいるように見えるのです。

「人間が指揮する」前提まで変わるのか

これまでのCADやBIMは、どれだけ高度になっても、基本的には人間が操作する道具でした。設計者が考え、判断し、その結果を図面やモデルとして表現する。道具は、その思考を形にするための手段でした。

しかし、AIには、これまでの道具とは異なる性質があります。細かな手順を教えなくても、目的に応じて作業の進め方を考え、必要に応じて複数の情報やツールを組み合わせることができるようになっています。

もし、AIが作業の進め方そのものを担うようになれば、私が「人間の役割として残る」と考えていたOrchestratingさえ、AIが担うようになるのでしょうか。

あるいは、AIもまた指揮者になるとすれば、人間の設計者は何を担うのでしょうか。

この違和感は、設計者の役割だけでなく、BIMそのものの位置づけにも及びます。AIが自律的に検討を進めるようになる中で、BIMは不要になるのではなく、むしろAIが建築の空間や属性、相互関係を理解するための重要な情報基盤になる可能性があります。ただし、その情報を人間が手作業で丹念に入力し続けるのか、それともAIが生成・更新・活用していくのか。私たちがこれまで前提としてきた「BIMのつくり方・使い方」も、変化していくと考えています。

BIMの先」を、もう一度考えてみる

こう考えていくと、「Drawing → Drafting → Modeling」の次に来るものを、単純にもう一つの言葉で表すこと自体が難しいのかも知れません。Orchestratingなのかも知れない。

しかし、そのOrchestratingを担う主体は、本当に人間だけなのでしょうか。AIが設計条件を整理し、案を生成し、法規や環境性能を確認し、BIMやシミュレーションツールまで操作するようになった時、私たちは何をもって「人間が設計した」と言うのでしょうか。

本連載では、この問いについて考えていきたいと思います。

あらかじめ描いた未来の姿に沿って、「AI時代の建築設計はこうなる」と正解を示すことが目的ではありません。むしろ、2026年という変化の真っただ中で、実際にAIを使い、試しながら、これまで自分自身が正しいと思っていた前提さえ疑ってみる。その過程を、読者の皆さんと共有してみたいと思っています。

最初に取り上げるのは、設計の進め方に起きている変化です。これまで建築設計では、与条件を整理し、平面、立面、断面、3Dモデルなどへと具体化しながら、完成イメージを形にしていくという流れが一般的でした。しかし、生成AIによって、設計プロセスそのものに新しい選択肢が生まれています。

例えば、最初に「こんな空間で暮らしたい」「こんな体験をつくりたい」というイメージを生成し、そこから空間の要素を読み取り、平面や断面、3Dモデルへと具体化していく。従来とは逆方向から設計を進めることも、現実的になりつつあります。

もし「完成イメージ」や「体験」から設計を始められるようになったら、建築設計はどう変わるのでしょうか。

次回は、実務の現場で起きている、設計プロセスの新しい選択肢について、実際に行った試行や検証を通して考えてみたいと思います。

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