BIMと、どう向き合ってもらうべきか。学校教育でも、実務者教育でも、教える側は常に試行錯誤しながら、その思いを伝えている。それだけBIMは奥深く、吸収する相手によって伝えるべきポイントも視点も変わってくる。特集「BIMとの向き合い方」では、前向きな思いを胸に自分流にこだわる推進役にスポットを当てる。
小川工業(埼玉県行田市)でBIM室長を務める平塚健太郎さんは「BIMはCADの延長ではない」と考えている。BIM担当になって5年。社内のBIM推進や学生へのBIM教育を通して、その考えを深めてきた。「CADではできなかったことが、BIMならできる。その発見を私自身が日々楽しんでいるように、BIMの可能性を皆に伝えていきたい」。平塚さん流のBIMとの向き合い方とは何か。事務所を訪ねた。

平塚さんが小川工業に現場監督として中途入社したのは2019年。入社から1年半ほどが経過した頃、経営トップからBIM室立ち上げの担当に任命された。「実は、その時に初めてBIMに触れた」。BIMソフトには、積算課長の考えのもと、専用アドオンによってBIM積算が可能になる「Archicad」を導入した。直感的に操作できるArchicadの使い勝手の良さもあり、「すぐに操作をマスターできた」という平塚さんだったが、そこからBIM担当としての“悪戦苦闘”の日々が始まった。
当初、会社はArchicadを社員全員が使えるようにする構想を描いていた。しかし、ライセンス費用に加え、現場担当者が操作習得に時間をかける難しさもあり、早い段階で全社員への導入を断念した。「現在、社内でArchicadを使いこなすのは私を含め3人。しかも残りの2人は積算部門に所属しており、現場と向き合いながらBIMを推進しているのは私だけ」と苦笑いする。

社員一人ひとりにArchicadの操作を覚えてもらうのではなく、必要な時にBIM室を頼ってもらう。そのためには、「私自身が圧倒的なBIMマスターになることが近道ではないか」と考えるようになった。外部講演への登壇などを通じて情報を発信し、「BIMのことは平塚に聞けばよい」という認識を社内に広げている。「何ができるか分からなくても、まずは気軽に相談してほしい」。社内イントラネットには「BIM室ポータル」を設置し、誰でも依頼を寄せられるようにした。
BIM推進の様子を紹介する「BIM Report」も、2021年のBIM室立ち上げ時から月1回のペースで発信し続けている。直近の「BIM Report_57」では、全国から約300人が集まったArchicadユーザーイベント「USERFEST2026」の盛り上がりを紹介した。「BIMの面白さや奥深さを知るきっかけになれば」と、その思いを語る。

根底には「BIMでこんなことができると知ることが、次の活用につながる」という考えがある。例えば最近はAR(拡張現実)の活用を現場に呼び掛けている。Archicadのモデルを現実の空間に重ねて表示することで、現場の納まりや完成イメージを関係者間で共有できる。モデルを実際のスケールで体験できるため、社内教育にも活用している。「実際に体験することで、BIMへの興味を引き出したい」。こうした取り組みを続ける中で、社内にもBIMでできることへの理解が徐々に広がりつつある。
埼玉県内を中心に事業を展開する小川工業では、ほぼ全ての新築プロジェクトでBIMモデルを作成している。モデル作成は外注せず、平塚さんが担当している。「重要なのは、誰がモデルを作っているかではない。そのモデルを使って、現場や業務にどのような価値を生み出せるかが大事」。現場から色決めに活用したいという要望があれば、マテリアル情報を変更して提供する。足場検討に使いたいという要望があれば、足場モデルを配置した資料を作成する。現場の目的に応じてモデルの見せ方や情報を変え、判断や関係者間の共有に役立てることで、BIMは実際の業務に結び付いていく。
「BIMで何ができるかをイメージしてもらえなければ、使ってもらうことはできない。だからこそ、私自身がさまざまな新技術に挑戦し、BIMの可能性を具体的に示している」

2025年に竣工した延べ約600平方メートルの木造プロジェクトでは、BIMによって構造や納まりを可視化し、現場関係者の理解を深めた。竣工記念として建設プロセスをまとめた動画も自ら作成した。
平塚さんは、これまで現場に対してBIMの勉強会などを積極的に開催してきた。しかし、操作方法を説明するだけでは、思うような結果を得ることができなかった。「BIMは、操作を覚えること自体が目的ではない。『こんなこともできるのか』と知れば、自分から試してみたくなる。BIMの可能性を実感できる機会をつくることを常に大切にしている」。この考えは、平塚さんが取り組む学生へのBIM教育にも共通している。