BIMedia編集部

コラム 「フィジカルAI現場の安全管理」

 国土交通省が建設分野へのフィジカルAI導入に向けて本腰を入れようとしている。AIとロボティクスを活用した新たな建設生産のあり方は、i-Construction 2.0を実現するために必要な手立ての1つであることは間違いない。産官学によるコンソーシムの立ち上げも動き出し、まさに業界を挙げた取り組みが、これからスタートを切る。

 これまでのi-Constructionは、ICTを活用した施工管理や出来形管理など、ソフトウェアを中心とした改善が大きな役割を果たしてきた。技術の導入に合わせて施工方法や管理基準を見直すことで、現場への普及が進んできた。

 i-Construction 2.0では、建設機械の自動化や遠隔化など、現場で稼働するハードウェアの活用が重要になる。技術開発に加え、導入コストの問題やオペレーションの見直しも必要となり、山積する課題は多く、乗り越えるべきハードルも高い。

 ロボットや自動・自律化する建設機械が現場で稼働するフィジカルAI時代には、新たな安全管理のカタチについても、しっかりと準備していくことが重要になるのではないだろうか。従来の人が機械を管理するという発想から、人と機械が情報を共有しながら安全を確保していく考え方への転換が求められる。

 人が操作する重機を前提とした現行の安全管理の枠組みでは、自動で動く機械と人が同じ場所(現場)で作業する状況を想定しきれない場合がある。例えば自動運転する重機が稼働している間は人が立ち入らない運用にしたとしても、作業の前後には準備や点検などで人が機械に接近する場面があり、複数の作業が並行する現場では機械の停止や再稼働のタイミングも安全管理に大きく影響してくる。単純に人と機械を隔離するだけでは、施工全体の効率と安全を両立することは難しい。

 遠隔操作によって人が機械から離れて作業する「無人化施工」と、機械が自ら判断して動く「自動・自律化施工」では、安全上の課題も当然異なる。省人化を進めるためには、機械の導入と同時に、人と機械がどう関わり、どのように安全を確保していくか、そうした前提に立って枠組みを考えていかなければならない。

 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)の建設委員会が「建設協調安全」という考え方をまとめた。これは、まさにフィジカルAI時代到来に向けて、新たな安全管理のカタチを議論する上で参考になる枠組みであると、BIMedia編集部では考えている。その基本には、製造業などで議論されてきた「協調安全」の概念がある。人、機械、情報などの関係を捉え直し、機械と人が協働する環境において安全を実現しようとするものだ。

 建設協調安全では、建設現場の人・モノ・環境が情報を共有し、連動することで全体最適の視点から包括的な安全を実現することを定義付けている。ICTを活用して情報共有をより密接かつリアルタイムに行い、人の目による確認や判断を補強することで、人とロボットの協働をより安全に確保する。この考え方は現在の安全管理を否定するものではなく、むしろものづくりの時代の変化に応じて柔軟に対応するための補完的な意味合いとして協調安全の視点を加えるべきではないだろうか。

 人・モノ・環境が情報を共有するためには、デジタルツインが重要な役割を担う。建設技術は錯綜した作業を同時並行で進めるための生産性向上を実現しようと進化を続けてきた。国を挙げて議論が始まった建設分野のフィジカルAIではAIとロボティクスを活用し、現場の省人化を追求していく。現場の状況をデジタルツイン上でリアルタイムに把握し、作業の進捗や機械の稼働状況などを関係者間で共有できれば、計画と実態のずれを確認でき、多様なリスクにも迅速に対応できる。

 人と機械の連携も同様だ。作業者の状態を把握するデバイスと機械側の情報を連携させ、異常を検知した際に機械を停止させたり、周囲の機械に状況を伝えたりする仕組みも考えられる。人の注意や経験だけに頼るのではなく、デジタル技術を組み合わせることで安全管理をより強固にする。

 ただ、建設協調安全の実証事例は確立されているわけではない。現場適用には技術面の検証はもちろん、運用方法や安全上の責任、関係する制度との整合性などを検討する必要があり、その確立には関係機関の理解と柔軟な発想が求められる。

 建設フィジカルAIの実現に向けた協議が始まろうとしている中、自動・自律化施工を実用化する上でも、既存の労働安全衛生法や現場の安全管理を土台としながら、新しい技術や作業形態に対応する仕組みをぜひ議論してもらいたい。人・機械・環境を一体的に捉え、その不足を補完するための概念として建設協調安全の考え方を取り入れるべきだろう。

 安全は機械単体の性能や個々の作業者の注意だけで完結するものではない。現場全体の情報を共有し、関係者と機械が連動してリスクに対応することが重要になる。デジタルツインを生産性向上のために導入するだけではなく、安全管理の基盤としても活用すべきだ。技術の進歩に合わせて安全の考え方を進化させることが、フィジカルAIの社会実装を支える重要な条件となる。(西原一仁)

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