国土交通省が開いた「フィジカルAI」のピッチイベント会場は「期待」と「不安」が入り交じっていた。国を挙げた関係府省のAIロボティクス連絡会議が発足し、建設分野も17分野の1つに位置付けられた。参加者にとってはその枠組みの中で国交省の研究開発が動き出すことへの「期待」とともに、うまくいくだろうかという「不安」が見え隠れしているような感じだろうか。

イベントに出席した企業・団体は104組織に達し、会場には200人を超える関係者が集まった。ゼネコンや専門工事会社、建設コンサルタント、建設機械メーカーはもちろん、建設DX関連に加え、ロボット、通信、電機関連からの参加もあった。
i-Construction 2.0では2040年度までに建設現場の省人化割合を3割、生産性向上を1・5倍に引き上げる目標が示されている。建設現場のオートメーション化を柱に位置付けているだけに、省人化の実現に向けたAIロボティクスへの期待は大きい。参加企業からは先行して取り組んでいきたいとの思いが強く伝わってくる。これまで建設分野では見られない顔ぶれも見受けられ、会場内は熱気があふれていた。
まさにピッチイベントは、国交省としてフィジカルAIの研究開発に向けたキックオフの場となり、建設分野における活用検討のシーズとニーズの共有を図る出発点となった。「われわれはイメージこそしているが、全てを把握しているわけではない。ここで共有された意見や情報を踏まえて、建設分野としての進むべき方向性を見定めていきたい」と説明したように、国交省側には謙虚さがにじみ出ていた。

参加企業の中で具体の事例発表を行った29社のプレゼンターは、逆に前向きだった。個々の取り組みは内容も濃く、一定の成果を挙げた事例もあり、建設分野におけるフィジカルAIの可能性を感じさせるものではあったが、業界として何を軸に取り組むことが効果的なのかが、逆につかみにくいほど多様な事例が相次いだ。
国交省ではロボット系と建設機械系の2つに区分けして、開発や導入の方策を打ち出していく方針をもっている。ロボットには人による作業をロボットにやってもらい、建設機械については自動化が実現できる切り口をイメージしている。
そのプラットフォームに位置付けようと考えているのが、土木研究所が整備・公開している自動施工技術基盤「OPERA」であり、1~3年の短期で既存技術を使ったAIロボティクスの導入効果を検証するとともに、5~10年スパンの中長期で将来的に現場を大きく変える可能性のある技術の実装を重ねて段階的に実用化していくという。

いわばOPERAは自動施工を対象にしたものであり、建設機械がロボットのように動く流れを形作ろうとしている。そこでキーになってくるのが共通制御信号の存在だ。これは異なるメーカーの建機がを同一のプログラムで操作可能にするための標準化された指令データになり、共通化が実現することで企業にとっては建機を使った自動施工の研究開発がしやすくなる。
ロボット系の導入検証も動き出している。土木研究所では四足歩行ロボによる排水機場の設備点検を実証中で、点検メーターの位置を下に向けたりした工夫を施すことで、代替えできるのは2割ほどという。施設内の移動などは支障ないことから、実用化への手応えは一定程度持っているようだが、ロボット系の試みが建設分野でどこまで普及するかはまだ未知数だ。
企業側にある「不安」は、技術開発の側面よりもむしろ開発費用の側面が強い。ピッチイベント参加者の中には自らの技術が建設フィジカルAIに貢献できるか、その可能性を探る市場調査の一環で参加している企業も少なくない。既存の建設機械を改良した場合は最小限のコストで抑えられるが、新たにロボットを開発する切り口では導入への費用対効果を導くことが難しい。
フィジカルAIの実用化は、建設業界内だけでは実現できない。他分野の専門企業をどこまで呼び込めるか。ニーズとシーズをマッチングするための動機付けが問われることは言うまでもない。会場からは、今年度を建設フィジカルAI「元年」にしてほしいとの前向きな声が響いた。(西原一仁)
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