前回の記事「建設DXにも「設計図」が必要だ」では、米ラスベガスで開催されたAutodesk University 2026(AU 2026)に参加していることに触れ、海外の先進企業からも「まず小さく始める」という言葉が繰り返し聞かれたことを紹介した。
Autodesk Universityは、Autodeskが毎年米国で開催するフラッグシップイベントである。世界各国から建築・エンジニアリング・建設、製造、メディア&エンターテインメントなどの実務者が集まり、最新のテクノロジーやユーザー事例、業界の将来像が共有される。今年のAU 2026も、9月15日から17日までラスベガスで開催された。
昨年まではAutodeskの社員として、日本から参加する顧客やユーザーを支援する側だったが、独立後初めて参加した今回は、BIMediaの編集委員として取材する立場になった。AU全体については今後あらためて記事にしていきたいが、まず紹介したいのが、開幕前日に日本の設備専門工事会社(サブコン)向けに企画された特別セッションである。
このセッションでは、米国の大手サブコンがBIMデータを設計・施工図だけでなく、製作、物流、施工、さらには原価や工程管理までどのようにつないでいるのかが、実務者自身の言葉で紹介された。今回は登壇者の発表内容と日本からの参加者の声をもとに、製品や企業の紹介にとどまらず、これからの日本の設備BIMに何を生かせるのかという視点から、その内容を整理してみたい。
高砂熱学工業とオートデスクがBIM活用に向けた覚書(MOU)を締結した2021年から5年。2023年には設備BIM研究連絡会が発足し、2026年8月には電気BIM推進協議会の発足も公表された。日本の設備工事業界でRevitによるモデル・施工図の作成や、CDE(共通データ環境)による情報共有が進む中、製作や現場施工へのデータ活用が次のテーマになっている。
その実践を米国の事例から考える場が、9月14日、米ラスベガスで設けられた。オートデスクのフラグシップイベント「Autodesk University(AU)2026」(9月15〜17日)の開幕前日、日本地域営業本部が日本の設備専門工事会社(サブコン)に向けた特別セッションを開催した。
日本からは高砂熱学工業、新菱冷熱工業、大気社、ダイダン、日比谷総合設備、三建設備工業、きんでん、関電工、東光電気工事、の9社が参加。開会に当たり、オートデスクの橘田憲人技術営業部長は参加者への謝意を述べ、サブコン向けイベントの参加人数が2024年の40人から2025年は68人、2026年は96人へと増えていることを紹介した。設備分野におけるDXへの関心と実践の裾野が広がっている。
ゲストには、AutodeskのMEP・プラント分野の専門家Scott Buchanan氏、HermansonでFabrication Database Managerを務めるTroy Van Santen氏、Southland Industries (以下 Southland)のDirector of AEC Technologies、 John Trammell 氏(以下JT)を迎えた。講演、視察報告とパネルディスカッションを通じ、BIMとデータを製作・施工につなぐ仕組みやAI活用、日本への示唆が語られた。

Autodesk Fabricationと自社工場が支える生産体制
企画の出発点には、日米の生産体制の違いがある。オートデスクの岡部氏は冒頭、米国の大手サブコンが自社のダクト・配管工場を持ち、施工図から製作まで業務とデータをつないでいる点に着目したと説明。日本にも工場保有を勧める趣旨ではなく、人手不足が進む中、日本の商習慣を生かした着地点を参加者とともに考えたいとした。
製作・施工のデータ基盤を担うのが、米大手サブコンで一般的となっているAutodesk Fabricationだ。部品の寸法や材料、接続工法に加え、コスト、製作・施工に要する工数などをデータベースで管理し、自社の基準に沿った部品(Fabrication Parts)をRevit内に配置することが出来る。形状だけでなく、実際に何を、どう作るかをモデルに持たせる仕組みである。日本でも私の在籍時には高砂熱学工業・新菱冷熱工業・フカガワなどがAutodesk Fabricationの活用に挑戦し知見を蓄えて来ている経緯がある。

Scott氏が示したのは、設計意図を表すモデルや図面を、製作・施工に必要な情報を備えたモデルへ発展させる考え方だ。設備の仕様やルートを検討し、他の設備や建築との干渉を調整したうえで、実際の部品や接続、施工条件を具体的にデータとして作り込んでいく。製作可能な状態まで詰めることで、後工程に残る判断や手戻りを減らしていく。
ワークフローは、米国でも一様ではない。Hermansonは設計事務所から受け取った設計モデルや図面を基に、Fabrication Partsを用いて製作に使えるモデルへ展開する。一方、詳細設計部(おそらく日本でいう実施設計部だと思われる)を持ち、設計施工一貫の案件を受注することの多いSouthlandでは、設計段階からFabrication Partsを利用する。各社の組織と業務分担に応じて、どの段階からFabrication Partsを使用するかが異なる。

自社工場を持つ理由について、JT氏は品質を一貫して管理できることや、安全性、工程の確実性を挙げた。Troy氏も、自社で製作を担うことで工程をコントロールしやすくなると説明した。条件が変わりやすい建設現場の作業を、設備や手順を整えた工場へ移す。さらに製作、搬送、現場での取り付けをつなぎ、必要な時期に必要な部材を届ける。デジタル化は、その生産体制を支えている。
プロジェクトの早い段階から関与する意味も、ここにある。Troy氏はゼネコンに早期に意見を伝えられる点を、JT氏はVEの提案につながる点を挙げた。後工程での作りやすさ、運びやすさ、取り付けやすさを設計へ織り込むことで、製作と施工を見通した判断ができるようになる。
共通データで積算から現場までつなぐ
では、そのデータは日々の仕事にどう使われているのか。Troy氏が紹介したHermansonのワークフローは、積算、施工モデルの作成、干渉チェック、位置出し、製作、出荷、施工、分析の8段階で構成される。各工程を支えるのは共通のFabricationデータベースだ。前工程で入力した情報を後工程が利用し、実績を次の判断に戻していく。

積算では、材料や部品、単価、工数の情報を使って費用を算出する。施工や製作用のモデルの作成にも同じ部品と基準を用いるため、見積もった内容と実際に製作する内容を対応させやすい。モデルを作るディテラーには、現場や工場の経験を持つ人材が携わる。Troy氏自身も板金工事の実務を出発点としている。製作や取り付けの知識が、部品の選択や納まりの判断に組み込まれる体制だ。
他工種との調整や、現場の既存条件との照合も製作前に行う。Hermansonの紹介では、モデルの調整に加え、レーザースキャンや位置出し用の機器を活用する流れが示された。工場で先に作るプレハブ部材やアセンブリしたユニットが現場で確実に納まるよう、デジタル上の情報と実際の施工条件を合わせておくことが重要になる。
HermansonとSouthlandの両社が、製作から出荷、施工への情報連携に利用しているのがSTRATUSだ。Autodesk Platform Services(APS、旧Forge)を基礎技術とし、Revitのモデルを工場や現場からウェブ上で参照できる。モデルを製作・出荷の単位に分け、さらにスプールと呼ばれる配管の組立単位や個々の部品へ展開し、部材表や切断情報、納期と結び付けて管理する。
オフィスでモデルをアップロードし、工場や現場の担当者が必要な納期や作業単位を設定する。製作が進めば状況を更新し、QRコードなども使って出荷や受け取りを追跡する。関係者が同じモデルと状態を参照することで、図面、製作指示、進捗の食い違いを抑える。共通の信頼できる情報を基に業務を進めるSSOT(Single Source of Truth)の考え方が、実務に落とし込まれている。
岡部氏は、8月にシアトルで開かれたSTRATUSのイベントと、Hermansonの工場を視察した様子を報告した。作業場所にはモニターが設置され、製作中のモデルや必要な情報を確認できる。加工機との連携により、配管を切断すると進捗のステータスが更新される例も紹介された。同じ視察に参加した三建設備工業の日比氏は、デジタル化が物理的な作業の実行段階に進んでいることを実感したと述べた。

集めた実績は管理と改善にも使う。HermansonではSTRATUSなどのデータを集約し、Power BIで進捗や費用を可視化している。予定した作業量に対し、どれだけ時間や費用を使ったのかを比較し、問題のある工程を把握する。モデルを起点に作業へ指示を送り、作業の結果をデータとして戻す循環が、工程や採算の管理を支える。
AIの進化は、こうしたデータの利用や作業の自動化にも変化をもたらしている。Scott氏は、ソフトウェア開発を専門としない立場から、AIを使って試作したツールを紹介した。モデルの数量と単価・工数を組み合わせる見積もりや、配管・吊り材の配置、スプール作成などが対象だ。設備の実務を知る人が、必要な処理をツールとして形にする例が示された。
Troy氏も、Scott氏の吊り材配置ツールのコードを基に、AIを使って入力項目や画面を自社向けに改良した例を紹介した。データベースの整理や編集を支援する取り組みも進める。一方、Hermansonでは利用できる人や範囲を管理し、セキュリティとサポート体制を重視している。実務者による開発を業務へ定着させるには、便利さとともに組織として維持できる運用が必要になる。
日本の生産体制に合う情報連携を小さく試す
これらの事例を、日本の設備工事にどう生かすか。工場を持つ米国の両社も、外部の製作・加工パートナーを活用している。パネルディスカッションでは、企業の境界を越えて品質や工程を管理するための条件が論点となった。
JT氏は、パートナー選びでは価格に加え、工程への対応力やデジタルの活用能力を重視すると説明。共通のプラットフォームで情報を共有し、自社が責任を持ってリスクを管理する考え方を示した。Troy氏も安定性を重視する。品質基準や納期、部材の識別方法、進捗の伝え方を合わせることが、社外へ製作を広げる際の土台になる。
新菱冷熱工業の太田氏は参加したSTRATUSのイベントの感想として「作れる施工図」を作り、BIMから工場へつなぐことに着目。STRATUSは自社工場を持たないサブコンにも有効だとの見方を示した。日本のように製作や施工を協力会社と分担する体制でも、相手が必要とする情報をモデルから取り出せるようにする視点は参考になる。
運用には難しさもある。Troy氏は、現場は条件が変動し、作業の標準化や管理が難しいことに加え、本社の方針が現場へ浸透しにくい面を指摘した。JT氏が挙げたのは、業務やテクノロジーの変化を組織に定着させるチェンジマネジメントの必要性だ。データを渡せる仕組みと、それを日々の判断に使う業務の進め方を、併せて整えることが求められる。

関電工の岡本氏からの電気設備に関する質問に対し、JT氏は米国でも機械設備の取り組みが先行し、その経験が電気設備へ広がっていると説明した。Southlandは電気工事も請け負い、配線も含めたモデリングやプレハブ化に取り組むという。機械設備で得た知見を、電気設備の特性に合わせて展開する動きも紹介された。
日本での最初の一歩について、JT氏とTroy氏が強く促したのは、業務プロセスと必要なデータを整理し、小さく試すことだった。例えば、配管の製作を担う会社がどんな情報を必要としているかを確認し、その情報を誰が作り、どの時点で渡すのかを決める。対象を絞った実案件で情報の受け渡しを確かめ、成果や課題を見ながら広げていく。自社と協力会社の仕事を理解することが、技術を選び、生かすための出発点になる。
今回のセッションを取材し、自社工場を持つ米国サブコンが、なぜデジタルワークフローを整え、データで物づくりにおける品質やリスクを管理しようとしているのか、具体的に理解できた。オートデスク日本地域営業本部の企画により、モデルの先にある製作と施工、そして経営上の判断までを実務者の言葉で聞けた意義は大きい。STRATUSやAIなどの技術の進展は、情報をつなぎ、作業へ生かす取り組みをさらに進めやすくしている。
一方、日本には日本の商習慣と分業の体制がある。米国の生産体系を参考にしながら、自社と協力会社に合う着地点を探る必要があるだろう。JT氏とTroy氏が勧めたように、まずは身近な業務を対象に小さく始める。その実践を重ねる中から、日本の設備工事を支えるデータ活用の着地点が見えてくることを期待し、この活動を継続して追いかけていく。
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