連載 失敗しない現場ICT術 (3)

3次元スキャン② 現場ユースケース 
染谷俊介デジタルコンストラクション染谷技研 代表

 前回は、3次元スキャンを支える「手段」――取得機材とデータ形式――を解説した。今回は、その「用途」を掘り下げたい。世の中に出回る事例紹介は、うまくいった成功事例に偏りがちだ。しかし読者の皆さんが本当に知りたいのは、うまくいかなかった事例や、そこに至るまでの試行錯誤ではないかと私は思っている。今回は、うまくいっている用途に加えて、あまり向かない用途、そしてニーズはあるのに実現していない用途まで、あえて整理して伝えたい。

QCDSEで整理する――現場で効くのは「Q」と「S」

 建設現場のマネジメント項目を表す「QCDSE」――品質(Quality)・コスト(Cost)・工程(Delivery)・安全(Safety)・環境(Environment)――という枠組みに当てはめると、3次元スキャンが力を発揮する領域は驚くほどはっきりしている。圧倒的に強いのは「Q」と「S」、あまり向かないのは「C」と「D」、そして「Q」の一部と「E」はニーズがあるのに実現できていない――というのが、現場で試行錯誤してきた私の実感だ。

 この整理が便利なのは、「3次元スキャンは万能ではない」という当たり前の事実を、感覚論ではなく管理項目という共通言語で語れるからだ。ツールの導入を検討する際にも、まず自分たちがQCDSEのどこで困っているのかを言語化してから機材を選ぶ方が、遠回りに見えて実は近道になる。まずは、うまくいっている領域から見ていきたい。

項目適合度備考
品質(Q)出来形計測・製品検査・現調など、信頼性の高い寸法測距が効く
コスト(C)×360度カメラ等、別ソリューションの方が向く
工程(D)×同上
安全(S)日々の様々な現場写真が寸法計測もできて少しリッチになる
環境(E)ニーズはあるが、実現している事例は少ない
現場管理項目(QCDSE)と3次元スキャン技術のマッチング整理(筆者作成)

品質管理用途――数ミリ単位の高精度が効く場面

最も相性が良いのは、施工出来形の寸法を数ミリ単位で計測する品質管理用途だ。

コンクリート打設後のスラブ平滑度の確認と修正指示。要求精度は±3mm以内、所要時間30分以内、費用は10万円程度が目安だ。CON押え作業中に、レベル閾値ごとに点群をカラー化してヒートマップ表示すれば、「どこを何mm修正すればよいか」という指示図がその場で作れる。

CON打設直後のスラブ平滑度計測とアウトプットの例(出典:筆者執筆論文(公開情報)より抜粋)

鉄骨工場での製品検査。要求精度は±1mm程度、所要時間は当日中、費用は従来の労務費を考えれば数百万円でも成立することが多い。3Dモデルと点群データを重ね合わせ、差分寸法を測定して合否レポートを作成する。ここまで精度を追い込むと、位置合せを全自動処理任せにせず手動で追い込む手間が発生するが、検査基準を満たさない部分を明示できる価値は大きい。

鉄骨スキャンデータとBIMモデルの重畳による製品検査の例(出典:筆者執筆論文(公開情報)より抜粋)

現地調査用途――センチ単位の中精度で十分な場面

 既存建物や既存構造物の形状調査や、改修工事前の現地調査などは、ミリ単位ほどの精度を求められない一方、深く意識せずに広い空間を網羅的に記録することが価値になるので、3次元スキャンの効果が特に出やすい領域だ。

既存地下躯体を山留めとして利用する新築工事。都市部では狭小土地での解体〜新築工事が多く、ニーズの大きい用途だ。数十年前に施工された地下躯体は竣工図との相違が大きく、実物が表出してから実測し、設計図や躯体図を修正することが多い。通常は全面の位置寸法を網羅的に確認する術がないのでかなり安全を見て過剰な躯体設計をするが、3次元スキャンによって簡易に、かつ合理的な設計が可能となる。

山留め残置する既存地下躯体のスキャンデータを使った新築躯体図の作成例(出典:筆者過去講演資料(公開情報)より抜粋)

改修工事における既存構造図作成の下書き。例えば4フロア・約3,000㎡の集合住宅のスケルトンを1か月で計測し、点群から自動生成したポリゴンメッシュを下書きに、既存構造モデルを作成した。竣工図には記載のないスリーブ位置なども、この実態データから拾える。

既存スケルトンのスキャンデータから生成したポリゴンメッシュを使った既存構造図の下書き例(出典:筆者過去講演資料(公開情報)より抜粋)

設備改修工事における配管経路の記録。60年耐用と言われるコンクリート躯体に対し、設備は15年と短サイクルで改修の必要が出てくる。建物ライフサイクルの中で繰り返し設備の配管改修や熱源改修が繰り返されるので、“今どうなっているのか”を記録するだけで価値がある。現地に行かなくても点群データ上で仮想的に現地調査・寸法確認ができる。

既存設備配管の点群データ例(筆者計測)

簡易な記録・コミュニケーション用途――10cm以上の誤差も許容

 もう一つ相性が良いのが、「寸法も計測できるリッチな写真」としての使い方だ。現場内の状況記録、例えば安全設備の不備を寸法付きで指摘したいケース、明日の作業エリアに置いてある資材類の移動指示など、場合によっては10cm以上の誤差があっても十分に用が足りる。厳密な計測ではなく、手軽さと伝わりやすさを優先する場面での活用だ。ポイントは、あくまで写真の拡張情報として点群をそのまま活用することだ。「ここまでできているなら足場のBIMモデルも重ねたい」などと言い始めると、どんどんツールが難しくなり、手軽さや低コストといった良さが消えてしまうので注意が必要だ。

寸法も測れる現場写真のイメージ(筆者計測)

「C」「D」には向かない――点群の強みを活かせない場面

 一方で、コストの予実管理や工程の進捗管理といった用途には、それほど向かないというのが率直な印象だ。点群データの本質的な強みは「寸法付きの空間データである」という点にある。コストや進捗の管理目的であれば、寸法精度そのものはさほど重要ではなく、むしろ「誰が見てもすぐ状況が分かる」視認性や、日々の変化を追いやすい閲覧性の方が求められる。であれば、点群でなくても、360度カメラ画像など別のソリューションを使った方が向いているケースの方が多いというのが実感だ。点群は取得・処理に相応の手間がかかる分、その手間に見合う「寸法」という価値を活かせる用途に絞って使うべきだというのが、私の考えだ。

360度カメラ画像を使った現場進捗管理のイメージ(筆者が生成AIにて作成)

ニーズはあるのに、まだ誰も解けていない用途

 最も期待しているのが、この領域だ。

 Q:品質管理の中でも、1mm〜サブミリ単位の寸法管理を要する用途――躯体出来形に応じた現場合わせの製作物発注や、現場内のあらゆる寸法の基準となる親墨出し、フロアごとの基準墨など――は、要求性能が厳しすぎて、現場で運用できる手段がまだない。しかし、最も品質に寄与するとても大事な仕事であり、省人化や高度化が実現するのであれば、費用が高くなっても実務で受け入れられるはずである。

 コンクリート打設中に「あと何m³必要か」を現地で瞬時に測定したいというニーズも根強いが、これは視認性という技術的な壁にぶつかる。型枠の奥までカメラやレーザーが届かずスキャンが難しかったり、鉄筋が邪魔になったりと、簡単には解けない。

 E:環境面では、掘削土の搬出量管理にニーズがある。地山の進捗差分を測るか、搬出トラックの荷台の土量を測るか、手段としてはやろうと思えばできる。さらにニッチな用途を掘ると、土壌汚染対策法対応の報告書作成では、汚染土壌の掘削量・搬出量管理が必須で、今も人力で体積計算しているケースが多い。それだけに簡易な3次元スキャンソリューションへの期待は大きいのだが、用途としてはかなり限定的で、そのためだけに大掛かりなシステム運用や設備投資はしづらい。ソリューションの性能と、労力・コストのバランスが合わない――「やればできるのだが、それだけのためにここまでやるのか」問題が、この領域にはついて回る。

掘削土量と搬出土量の管理イメージ(筆者が生成AIにて作成)

 こうして並べてみると、「ニーズはあるのに実現していない用途」に共通するのは、要求精度が極端に高いか、対象がニッチすぎるかのどちらかだ。どちらも、汎用的な機材・ソフトの組み合わせでは太刀打ちできず、専用の開発投資が必要になる。だからこそ、業界全体でこの領域の情報を持ち寄る価値があると私は思っている。

解像度と対象サイズに応じたスキャン手段と用途のマッピングイメージ(筆者作成)

「それだけのためにここまでやるのか」問題を超えるには

 うまくいっている事例は、業界内でどんどんシェアして真似してほしい。向かない用途についても同様に共有し、同じ失敗や試行錯誤を繰り返さずに済むようにしたい。そして、私が一番期待しているのは、ニーズはあるのにうまくいっていない領域だ。ニッチで限定的な用途が多い印象だが、こうしたニッチニーズを束ねて、ある程度汎用的に様々な場面で使い回せる手軽なソリューションが生まれれば、現場は一気に楽になるはずだと考えている。良いノウハウが見つかったら、また報告したい。

 次回からは、近年急速に注目されているAI活用について、生成AIからフィジカルAIまで、市場動向や主要プレイヤーを順に解説していく。

連載 失敗しない現場ICT術 はこちら


染谷俊介 デジタルコンストラクション染谷技研 代表 / 技術顧問(複数企業)2007−2025年、竹中工務店にて建設DX分野のR&D・実務適用や本社BIM推進部門立ち上げに携わる。専門であるBIM・3D測量技術は業界標準化にも携わる。2025−2026年に総合コンサルファームであるアビームコンサルティングにて戦略コンサルマネージャー(管理職)を経験。現在は建設DX分野の技術コンサルティング業を独立開業。博士(工学)。一級建築士。事業HP http://www.dc-someya.com/

記事トレンド把握のため、気軽に押して下さい

トップに戻る

注目コンテンツ