連載 建設DXを「つなぐ」(1)

あふれる情報をポジショントーク越えてつなぐ 
羽山拓也Polaris Advisory Works代表

BIM、CDE、AI、デジタルツイン、データベース、ロボティクス。

建設DXを取り巻く技術や情報は、この数年で一気に増えた。

デジタル変革の方向性の模索から、実装段階へ

日本では2009年が「BIM元年」と言われ、それ以降、一部の先進的な実務者を中心にBIM活用が進んできた。近年は、建築BIM推進会議をはじめとする官民連携によって業界として目指す方向が徐々に整理され、各企業でもDXへの投資が進んでいる。

以前のように「BIMの定義や導入意義を議論する段階」から、実務でのBIM活用、データ連携、業務プロセスの変革へと少しずつ移り、いよいよ「現場でデジタル変革をどう実装し全社に展開するか」が主題になってきたように感じている。

一方で、企業や現場の方々と話していると、別の難しさも強く感じる。

「PoCまでは実施したが、経営層や現場を巻き込み、その先に進めることが難しい」

「新しい技術が次々に出てきて、情報収集だけで時間が過ぎていく」

「自社に本当に必要な技術なのか、検証するだけでも時間がかかる」

「多くの企業から提案を受けるが、それぞれを比較するのが難しい」

建設業界の繁忙度が高まる一方で、AIをはじめとするテクノロジーの進化は非常に速い。限られた時間の中で、新しい技術やトレンドを見続け、自社に必要なものを選び、標準を更新し、実務へ展開し続けなければならない。

私は、これからの建設DXでは、単に新しい技術を知るだけではなく、情報と現場、課題と技術、そして人と人をどう「つなぐ」かが重要になると考えている。

この連載では、その「つなぐ」をテーマに、建設DXのリアルを発信していきたい。

三つの立場から見てきた建設DX

私はこれまで、鹿島建設で設備設計、不動産デベロッパーで施設管理や不動産企画、そしてオートデスクで技術営業に携わってきた。直近では、オートデスクで建築・土木分野の技術営業組織を率いていた。

建設会社では「つくる側」、不動産会社では建物を「企画・保有・運用する側」、テクノロジーベンダーでは技術を「提供する側」として、建設DXを見てきたことになる。

またオートデスクでは、高砂熱学工業新菱冷熱工業丹青社船場など、日本を代表する企業の経営層から部課長、現場のキーパーソンまで、多くの方々と議論を重ね、企業のデジタル変革の構想づくりから、その実現に向けた長期的な伴走まで経験した。

振り返れば、業界の中でも比較的珍しいキャリアを歩んできたと思う。

その経験を通じて強く感じたのは、同じ建設DXでも、立場によって見える景色がまったく違うということである。

現場では魅力的に見える技術でも、経営から見れば投資対効果を実感しにくいことがある。反対に、経営として合理的に見える施策でも、実は現場の業務に大きな負担を強いていることもある。多くの企業の中に入り込んで支援してきたが、その両者が十分に噛み合っていない場面を何度も見てきた。

現在の支援でも、技術の選定・導入だけではなく、その技術を誰に、どのような価値として届け、事業や組織の成果につなげるかまでを一緒に考えることが増えている。技術と現場に加え、経営や事業の視点まで行き来することが、建設DXの実装には重要だと感じている。

また、テクノロジーベンダーには海外事例や製品知識など多くの有用な情報があるが、当然ながら、最終的には自社の製品やサービスを活用してもらいたいという立場から市場を見ている。

どの立場が正しいということではない。

それぞれの立場から見えているものを、つないで考えることが重要なのである。

ポジショントークを否定するのではなく、読み解く

「ポジショントークを越えて」と書くと、ベンダーやコンサルタントの発信を否定しているように聞こえるかもしれない。私はそう考えていない。

前職でテクノロジーベンダー側にいたからこそ、ベンダーが持つ技術情報、海外事例、専門知識には大きな価値があることを理解している。

重要なのは、情報そのものを疑うことではなく、「誰が、どの立場から発信している情報なのか」を理解したうえで読み解くことである。

ベンダー、コンサルティング会社、行政、建設会社。それぞれの視点を行き来しながら、「では、自分たちの企業や業界はどうすべきなのか」を考える必要がある。

現在私は、特定の企業に所属せず、特定のソフトウェアプロダクトを持っているわけでもない。だからこそ、建設DXにおいて、経営・事業・業務・テクノロジーを横断し、何をやるべきかを定め、適切なプレイヤーを組み合わせ、成果が出るまで伴走することを、自分の役割としている。自らすべてを実装するのではなく、経営と現場、課題と技術、構想と実行をつなぎ、フラットな立場で前進を支えたいと考えている。

この連載で「つなぐ」もの

この連載では、主に三つの「つなぐ」を意識する。

一つ目は、情報と現場である。

新しい技術やサービス、行政・業界団体の動き、各種レポートを単に紹介するのではなく、「建設実務にどう関係するのか」という視点で読み解いていく。

二つ目は、課題と技術である。

「AIを使いたい」「BIMを導入したい」からではなく、「何に困っているのか」「どの業務を変えたいのか」を起点に考える。

三つ目は、人と人、企業と企業である。

オートデスク時代にも、設備BIM研究連絡会の立ち上げ支援、家具メーカー各社の意見交換の場づくり、Revit User Groupへの支援など、企業や立場の違いを越えて知見を共有する「非競争領域」の活動に関わってきた。

デジタル変革には、各社が競争すべき領域がある一方で、業界全体で知見を持ち寄り、共通の課題を議論した方が前に進みやすい領域も多い。立場を越えたコミュニケーションは、業界全体のデジタル変革を前進させる力になると考えている。

独立後にCNSと取り組んでいるBIM教育プラットフォームの構築も、その延長線上にある。単にBIMの操作教材を増やすのではなく、企業が育てたい人材や解決したい実務課題を起点に、教育コンテンツ、学習体験、事業としての届け方まで検討している。BIM・DX人材の育成に必要な知識や学びの機会を、業界で共有できる基盤として育てていく。この取り組みも、私自身は建設業界における「非競争領域」の一つだと考えている。

オートデスク在籍時は、個社との戦略的な連携に加え、こうした業界横断の活動にも関わってきた。独立した今後は、この連載を通じて、非競争領域として共有できる情報や知見を、特定の企業だけではなく、より広く業界へ還元していきたい。

今後は、建築BIM推進会議をはじめとする業界動向、国内外の新しい技術やサービス、大型イベント、各種レポート、そして実際のDX支援から得た気づきを取り上げていく予定である。

今年9月には米国ラスベガスで開催されるAutodesk University 2026にも参加を予定している。今回はオートデスク社員ではなく、メディアの立場として招待を受けており、BIMやAI、建設テクノロジーの現在地を見て、自分なりに発信してみたい。

現場を見る。技術を見る。立場を越えて、建設DXを「つなぐ」。

そんな連載にしていきたいと考えている。
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 羽山 拓也(はやま たくや)東京大学大学院 建築学専攻修士課程修了。鹿島建設で設備設計、不動産デベロッパーで施設管理・不動産企画に従事した後、2019年よりオートデスクで建築・土木分野の技術営業を担当。直近では同社の技術営業組織の建築・土木分野を率い、建設業界各社のBIM・DX推進を支援。2026年に独立し、Polaris Advisory Worksを設立。現在は建設DX領域において経営・事業・業務・テクノロジーを横断し、何をやるべきかを定め、適切なプレイヤーを組み合わせ成果が出るまで伴走する支援に取り組んでいる。活動・問い合わせ www.linkedin.com/in/takuya-hayama

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