連載 時代は情報マネジメントへ(2)

今こそBIMからのパラダイムシフトを起こそう 
伊藤久晴 BIMプロセスイノベーション代表

 近年、建設業界ではBIMの導入が急速に進んでいる。設計事務所、ゼネコン、サブコンを問わず、多くの企業がBIMソフトウェアを導入し、3次元モデルを活用した設計や施工に取り組んでいる。このように、日本ではBIMを支える技術が大きく進化してきた。しかし、その一方で、それを使う人たちの意識や仕事の進め方は、必ずしも大きく変わっているとはいえない。従来のCADを使った仕事の進め方を残したまま、ソフトウェアだけを3次元のBIMソフトウェアに置き換えている場合もある。

 以前、ある意匠設計事務所を訪問した際の話をしよう。その会社は業界でも比較的早い段階からBIMの導入と活用に取り組んでいた。その結果、設計担当者の全員がBIMソフトウェアを利用し、若手だけでなくベテランも含めて日常的に3Dモデルを作成していた。外から見れば理想的なBIM導入企業である。しかし、実際の業務の進め方について話を聞くうちに、私は少し違和感を覚えた。

 確かに、全員がBIMソフトウェアを使っており、その成果はプレゼンテーション技術の向上に現れていた。その会社は、BIMモデルを利用したパースや動画の制作に力を入れ、以前は外部に委託していた完成予想パースやCG動画を社内で制作するようになっていた。

 美しいレンダリング画像、迫力のあるウォークスルー動画、顧客向けの提案資料など、プレゼン資料の品質は高い。営業面では大きな効果があっただろう。

 ところが、設計の進め方そのものは、以前とあまり変わっていなかった。設計担当者がモデルから図面を出力し、印刷した図面を上司が赤ペンでチェックし、その指摘をもとにモデルや図面を修正する。そして修正した図面を再び印刷して確認する。机の上には、従来と同じように図面や資料があふれていた。つまり、プレゼンテーションの方法は変わったが、設計情報を作成し、確認し、承認する仕事の仕組みは、ほとんど変わっていなかったのである。

BIMを導入しても従来の設計プロセスが残る設計事務所のイメージ(AIで作成)

 もちろん、プレゼンテーションは重要である。顧客に建物の完成イメージや設計意図を分かりやすく伝えることは、設計事務所の重要な役割の一つだ。しかし、設計事務所がBIMによって本当に実現したいことは、単にきれいなパースや動画を作れるようになることだけではないだろう。設計の品質を高め、関係者間の調整を円滑にし、手戻りや無駄を減らし、より確実に成果物をつくり上げることが、本来期待されていたはずである。

 BIMを導入しても期待した成果が得られないとき、多くの企業は、その原因をハードウェアやソフトウェア、教育、人材などに求める傾向がある。もっと高性能なパソコンが必要なのではないか。もっと便利なツールを開発すべきではないか。もっと多くのBIM部品を整備すべきではないか。BIMオペレーターを増やし、ソフトウェアの教育をさらに充実させる必要があるのではないか。

 確かに、これらを整備すれば、BIMモデルの作成や活用は進むだろう。しかし、それだけで設計の品質や生産性が向上するとは限らない。なぜなら、モデルを作る技術が進歩しても、情報を作成し、確認し、共有し、意思決定する仕事の仕組みが変わらなければ、従来の非効率なプロセスがそのまま残るからである。

 そこで、取り組みの視点を変える必要がある。それが、BIMからIM、すなわち情報マネジメントへのパラダイムシフトである。パラダイムシフトとは、それまで当然と考えられていた前提や物事の捉え方が、根本から変わることである。

 これまでのBIMへの取り組みでは、BIMを「属性情報を持った3次元モデル」と捉え、そのモデルをどのように作成し、どのように活用するかという点に関心が向けられてきた。3次元モデルによる可視化、図面作成、干渉チェック、数量算出、シミュレーションなどが、その代表的な活用方法である。

 一方、情報マネジメントでは、モデルだけを対象にするのではない。発注者の要求を実現するために、BIMモデル、図面、計算書、報告書などの必要な情報を、誰が、何の目的で、いつ、どのように生産するのかを考える。さらに、それらの情報をどのように確認し、承認し、共有し、意思決定に利用するのかという、仕事の仕組み全体を対象とする。つまり、BIMソフトウェアを中心に考えるのではなく、情報が生み出され、関係者の間で確認・共有され、意思決定を経て、必要な時点に確実に提供されるまでのプロセスを中心に考えるのである。

BIMからIM(情報マネジメント)へのパラダイムシフト

 図の左側は、属性情報を持った3次元モデルをどのように作成し、活用するかという「BIMモデル中心の視点」の取り組みである。これに対して右側は、発注者の要求を満たすために、必要な情報をどのように生産し、管理し、レビューや承認などの意思決定を経て、確実に提供するかという「情報マネジメント中心の視点」の取り組みである。情報マネジメントでは、情報要求事項の設定、共通データ環境(CDE)による情報の管理と共有、最新版や承認状態の管理、レビュー・承認の履歴管理、さらには情報を組織のナレッジとして蓄積し、再利用することなどが重要になる。

 これは、属性情報を持った3次元モデルやBIMソフトウェアの活用を否定するものではない。むしろ、BIMという優れた技術を、情報マネジメントという、より大きな仕組みの中に位置づけ直すことである。最初に紹介した設計事務所は、すでに多くの設計担当者がBIMソフトウェアを使いこなしている。そのため、情報マネジメントの考え方を取り入れれば、情報の作成、確認、共有、承認という設計プロセスの変革を比較的進めやすいかもしれない。

 しかし、情報マネジメントは、一つの部門や一つの企業だけでは完結しない。設計者だけでなく、発注者、施工者、専門工事会社、メーカーなど、多くの関係者が参加し、それぞれの役割と責任を明確にしながら、必要な情報をつないでいく必要がある。

 その第一歩は、BIMを単なる3次元モデル作成の技術として捉えるのではなく、関係者が必要な情報を確実に生産し、共有し、意思決定に利用するための仕組みとして捉え直すことである。必要なのは、新しいソフトウェアを導入することだけではない。まず、BIMモデルを中心に考える意識から、情報とそのプロセスを中心に考える意識へと転換することである。この意識の転換こそが、「BIMからIMへ」というパラダイムシフトなのである。

伊藤久晴 (BIMプロセスイノベーション代表/応用技術 技術顧問)https://bimhub.jp/

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