連載 建設DXを「つなぐ」(4)

AIはBIMだけではプロジェクトを理解できない 
Polaris Advisory Works代表 羽山拓也

― AU2026と実務から考える「Context」 ―

前回の連載では米ラスベガスで開催されたAutodesk University 2026(AU 2026)で、日本の設備専門工事会社(サブコン)向けに企画された特別セッションを紹介しつつ、BIMデータを製作・施工へつなぐことをまとめた。今回取り上げるAU 2026の基調講演では、予想通りAIがAutodeskの各製品にどのように組み込まれていくかが大きなテーマだった。しかし、AIそのもの以上に私の印象に残った言葉が「Context(文脈)」だった。建設・土木分野の基調講演でも、計画、設計、建設、運用の各段階でContextが引き継がれることで、AIがより信頼できる基盤に基づいて業務を遂行できるようになる、という方向性が示された。では、建設プロジェクトにおけるContextとは具体的に何なのか。AUで抱いたこの問いを、その後の自分の建設DXコンサルティング業務で思いがけず実感する機会があったので、紹介したい。

画像1:Autodesk CTOのRaji Arasu氏の講演スライドには、次の問いが示されていた。
「AIの回答は、正確で、実際の行動につながり、自社のデータに根拠づけられているか?」


それでは、AU2026で「Context」は何を意味していたのか?

AU 2026では、AIを単独の機能として語るのではなく、業界別クラウド上でデータとContext(文脈)をつなぎ、ライフサイクル全体で活用する方向性が繰り返し示されていた。建設・土木領域では、Autodesk Formaを建設・土木業界向けのエンドツーエンドの業界クラウドとして構築し、計画・設計・建設・運用をまたいでContextを引き継ぐことが、AIの信頼性を支える基盤になると説明されていた。

Formaのデータ管理機能(Forma Data Management)についても、単にファイルを保管する場所ではなく、適切な管理の下でプロジェクトデータを共有し、フェーズをまたいでContextを継続して活用できる環境として紹介された。さらには、モデル、図面、点群、GIS、RFI、指摘事項、スケジュールなど、これまで別々に扱われがちだった情報を横断して利用する方向が示されていた。

ここから先は、オートデスク日本法人とのやり取りも踏まえた私自身の整理だが、これまでBIMやCDEが主に蓄積してきたのが「What(成果物・状態)――何があるのか、どうなっているのか、何が変わったのか」だとすれば、AIがプロジェクトをより深く理解するためには、そのWhatに「Why(判断理由)――なぜその判断や変更をしたのか」をはじめ、誰が、いつ、どの条件のもとで判断したのか、どの成果物や変更と関係するのかといった情報も結び付いている必要があるのではないか。本稿では、こうした成果物や状態の意味を理解するための周辺情報と、その関係性を含めて、便宜上「Context(文脈)」と呼ぶ。WhyはContextの重要な要素の一つ、という整理である。

画像2:成果物・状態データ(What)とContextデータの違いとその価値
※Autodesk日本法人提供資料をもとに筆者が再構成

実務で「Context」の価値を体験した

この考え方を、私は独立後に支援しているCNSとの仕事で思いがけず実感することになった。CNSとは、BIM教育プラットフォームの事業づくりについて、企画、営業、サービス設計、顧客フィードバックの整理などを継続的に議論している。最近では、一部顧客向けに、プラットフォーム構想と実務活用を見据えた教育コンテンツの体験会も実施した。

半年近く続けてきた定例会における事業づくりの論点を、PowerPointやExcel資料にまとめ、教育動画などの成果物とともに時系列で残してきた。CNSと私の間で、誰がどのスライドを作成したのか、どの提案に対して誰がフィードバックしたのかも、自分自身の記録が負担になりすぎない範囲で、コメント等に残してきた。

資料は自身のGoogle Driveに蓄積し、CNSとのチャットやメールで交わしたやり取りのうち、意思決定の背景を理解するために必要な内容については、機密情報を除いた形で、関連するスライドとの関係が分かるように記録していた。また、このプロジェクトを通して日々感じたことも記録を目的に音声入力で、日記のような形で残してきた。非常にアナログな方法ではあるが、結果として、成果物というWhatに加え、「なぜその判断や変更をしたのか」というWhy(判断理由)を含むContextも、成果物との関係性を保ったまま残していたのである。

あるとき、機密情報を除外して整理した資料をChatGPTから参照させ、「この約半年、私が関与したことでCNSのBIMビジネスはどのように変化したのか」「何ができていて、今後何をすべきか」を整理させた。すると数分程度で、議論の変遷、実現したこと、未解決の論点、次に取り組むべきことを、かなり筋の通った形でレポートにまとめた。

表 CNSへのコンサルでの情報の持ち方を、建設DXの情報構造に置き換えて考える

CNSで私が残していた情報建設DXに置き換えた見立てAIに与える意味
時系列で蓄積した動画コンテンツ/PPT/Excel、作成者・更新履歴BIMモデル・図面・表What(成果物・状態):何が、いつ、どの状態だったか
議論・フィードバック・音声メモ等を関連資料と紐付
その他CNSの事業方針など
検図記録、議事録(社内/顧客/行政)、承認・変更履歴
その他個社の設計基準など
Context(Whyを含む):なぜその判断・変更が行われ、誰がどう関与したか
Google Drive上の共通保管FormaなどのCDE(共通情報基盤)情報の所在と時系列を保つ
ChatGPTによる横断分析Autodesk AssistantなどのAIによる横断的な検索・分析WhatとContextの関係から現在地と次の行動を整理

※上表は製品機能を同一視するものではなく、Whatを示すデータ、それを意味づけるContext、AIによる横断解釈という役割を理解するための比喩(メソドロジー)である。なお、分析対象は、顧客情報・個人情報などの機密情報を除外した資料に限定している。

CNSにとっては、自分たちが何を考え、何を積み上げてきたのかを俯瞰し、次の方向性を確認する材料になった。同時に私自身にとっても、会議や提案の積み重ねの中に埋もれやすいコンサルティングの価値を可視化する機会になった。何より、そのレポートはCNS自身が蓄積してきたデータに根拠づけられ、次の議論やアクションにつながる材料になった。AUで示された「accurate, actionable and grounded in your data」という問い(画像1)を、実務の中で少し体験できたように感じた。CNSとはこのレポートを基に、これまでを振り返り、次のアクションを議論し、実行に移せている。

興味深かったのは、AIがうまく整理できた理由が、PowerPointなど成果物の枚数や情報量だけではなかったことだ。資料と資料の間に、「誰が」「いつ」「何を提案し」「どんな反応があり」「なぜ次の方向へ進んだのか」という関係性が残っていた。成果物そのものがWhatだとすれば、その周辺に残した会話、フィードバック、判断理由、作成者や時系列などがContextとして意味を補っていた。その中でも「なぜ次の方向へ進んだのか」という判断理由がWhyにあたる。つまり、Whatと、それを意味づけるContextの関係性が残っていたことが大きかったのではないかと考えている。

このレポートについて、CNSの代表や現場のキーマンからも「納得感があり、非常に参考になる」とのコメントを頂いている。同じ振り返りを人が大量の資料から行えば、相応の工数がかかり、結果を共有するまでに時間もかかる。一方で、だからといってAIにすべてを任せればよいわけではない。レポートをどう伝え、顧客とどう議論し、どの意思決定につなげるかは人の役割である。また、どの情報をどう残し、AIに何を参照させ、どのような指示を与えるかも人が設計する必要がある。


AUで語られていた少し先の未来を、自分の業務の中で小さく先取りして体験できたように感じた。

画像3:CNSの半年間をChatGPTで振り返ったレポート例(簡素化し機密情報はマスキング)。

AU 2026の製造業領域では、会話も「変更プロセス」に結び付ける

このCNSの経験と重なるように感じたのが、同じAU 2026の製造業の領域で示された考え方だった。Digital Threadでは、設計・製造をまたいで「要件・意思決定・変更」をつなぐ基盤が提示され、Agentic PLMの例では、OutlookやTeamsの連絡内容を製品・部品・変更プロセスと関連付ける構想まで紹介されていた。メールやチャットそのものが価値なのではない。重要なのは、そこで交わされた会話が「どの成果物」「どの変更」「どの意思決定」に関係するのかが分かることだ。情報同士の関係性が保持されていれば、AIは単なる全文検索を超えて、「なぜこうなったのか」というWhyを含むContextを理解しやすくなる。CNSで意図せずつくっていた情報構造も、これに近かった。

画像4:Autodeskの製造業向けプラットフォームFusionで示されたDigital Thread
※Autodesk日本法人提供のAU2026サマリーからの抜粋。

BIM/CDEに置き換えると、「What」と「Context」が見えてくる

建設プロジェクトに置き換えると、Context(文脈)の意味はさらに見えやすい。BIMモデルを見れば、壁、配管、設備機器の位置や属性が分かる。点群や写真を加えれば、現場が今どのような状態かも把握しやすい。これらはWhat(成果物・状態)を豊かにしてくれる。

しかし、モデルや現況を見ただけでは分からないことも多い。なぜこのルートを選んだのか。なぜこの仕様へ変更したのか。何が本設で何が仮設なのか。どこまで施工が進み、どこが計画から遅れているのか。どの安全条件や品質条件を守る必要があるのか。誰が、どの時点で、その判断を承認したのか。

つまり、ContextはWhyだけではない。こうした「意味」「意図」「制約」「意思決定の履歴」は、モデル、図面、RFI、議事録、工程、現場写真などの周辺にすでに存在している。また、敷地・周辺環境、業界標準、会社固有の設計基準や判断基準といった、比較的静的なContextもある。問題は、情報がないことよりも、それらがフォルダやシステムをまたいで分散し、相互の関係が失われやすいことではないだろうか。

AI時代に重要になるのは、すべての情報を一つの巨大なデータベースに集めることではない。Whatに、その背景にあるWhyや判断の前提条件などのContextを、関係性を保ったままつないでいくことだと思う。

Physical AIでは、Contextが現実世界の行動につながる

AU 2026では、設計・建設・運用のデータをつなぎ、AIの意思決定に必要なContextを生み出していく方向性も示されていた。私はそこから、Physical AIの時代にはContextの重要性がさらに高まるのではないかと考えている。

先日滞在したJersey Cityでは、Uber Eatsの自動配送ロボットが、人や車の行き交う歩道を走り、交差点を横断していた。AIが「画面の中」だけでなく、現実世界を認識し、判断し、行動する姿が、すでに街の日常に入り始めている。

建設現場でも、自律施工、搬送、点検、設備保全などでロボティクスの活用は広がっていくだろう。しかし、カメラやLiDARで「人がいる」「壁がある」「配管がある」と認識できるだけでは、安全に行動するには足りない。その配管は本設なのか仮設なのか。そこへ進入してよいのか。今この場所で作業してよいのか。完成形として何を目指しているのか。現実空間を「見る」能力に加えて、その意味を理解するContextがあって初めて、AIの判断が現実世界の行動につながる。

画像5:Jersey Cityで見かけたUber Eats / Avrideの自動配送ロボット。筆者撮影。

「Contextをつなぐ」が、建設DXの次のテーマになる

これまでの連載では、第1回では現場と情報をつなぐこと、第2回ではPoCの前に目的を設計すること、第3回ではBIMデータを製作・施工・工程へつなぐことを考えてきた。今回考えたのは、そのもう一段先にある「つなぐ」である。

BIM、図面、写真、工程などのWhatに、その背景にあるWhy、条件、意思決定の履歴などのContextを結び付けていく。それによってAIは、単に情報を検索・要約するだけでなく、「なぜ現在こうなっているのか」を理解し、次の判断を支援しやすくなる。

BIMやCDEも、人が情報を見るための基盤であるだけでなく、AIがプロジェクトや現実空間を理解するための基盤へと、その役割が広がっていくのだと思う。

すべての情報を最初から完璧に構造化する必要はない。一つの設計変更について、変更前の成果物、判断理由、承認、変更後の成果物を関連付けて残す。まずはそんな小さな単位からでも始められる。

AI時代に問われるのは、AIそのものの性能だけではない。AIが判断するためのContextを、日々の業務の中でどう残し、どうつないでいくか。AU 2026で抱いたこの問いは、これからの建設DXを考えるうえで、重要なテーマの一つになるのではないだろうか。


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