「BIM図面審査を使うと、設計者の仕事はどのくらい変わるのでしょうか。」
第1回では、BIM図面審査が始まった背景と、制度の現在地が紹介されました。今回は、実際に制度を利用した設計者の経験から、準備や申請にどのような変化が生じているのかを見ていきます。
2026年8月に開催された「設計者のためのBIM図面審査対応セミナー」では、制度を利用した吉川建設と大林組が、それぞれの取組みを紹介しました。会社の規模も組織体制も、使用するBIMソフトも異なります。それでも、両社の事例からは、入力ルールを整えること、関係者で対応範囲を共有すること、得た経験を次に生かすことの大切さが見えてきます。
1. BIMの入力ルールを整える
最初に紹介されたのは、長野県に本社を置く吉川建設の事例です。同社は2018年にBIMを導入し、当初は企画設計を中心に活用していました。その後、2021年頃から実施設計や確認申請への利用を見据え、設計テンプレートや入力ルールの整備を進めてきました。BIM図面審査が始まってから、急に申請用の環境をつくったわけではありません。普段の設計で使うBIMを、BIM図面審査にも生かせるようにしてきたのです。
同社では、なるべく二次元の書き込みに頼らず、モデルに入力された情報から図面や集計表を作成できるよう、よく使う部材の設定、命名規則、属性の入力方法、図面化のルールなどを整えてきました。
BIMソフトは自由度が高いからこそ、設計者ごとに入力方法が異なると、情報の品質や出力結果にばらつきが生じます。入力と図面化の基本ルールを揃えることが、申請図書を安定して作成するための土台になります。
最初のBIM図面審査案件を提出したのは、制度開始直後の2026年4月中旬でした。この案件では意匠分野をBIM図面審査の対象とし、構造や設備は従来の方法を併用しています。
申請に向けて既存のテンプレートを「BIM 図面審査における確認申請図書表現標準」に合わせて修正し、入力作業を補助するアドオンもAIを活用して試作しました。6月には確認済証が交付され、長野県内で最初の事例になったと紹介されています。
では、実際に仕事は楽になったのでしょうか?
発表では、求積図や面積関係の整合性を確認する負担が軽くなり、その部分について審査機関からの指摘もなかったと説明されました。一方で、初回は制度への対応やテンプレートの修正、補助ツールの準備に時間が必要でした。楽になった部分と新たに準備した部分を差し引くと、最初の案件では「プラスマイナスゼロ」に近かった、という率直な感想も語られています。
BIM図面審査を使えば、初回から申請作業が劇的に短くなるとは限りません。しかし、一度整えたテンプレートや入力ルールは、次の案件でも使えます。初回を一度限りの負担で終わらせず、次の案件へ引き継げる仕組みにできるかどうかが、その後の効率を左右します。
2. 合意形成によって申請方針を揃える
次に紹介された大林組の事例では、関係者間の合意形成の重要性が示されました。
同社では、BIM推進部門、建築法制部門、設計部門が連携し、社内BIM基準をもとにBIM図面審査の運用を整えています。その中心となる取組みが、「合意形成会議」です。BIM図面審査では、入出力基準に従ってBIMデータと図書を作成した範囲を示す「入出力基準適合誓約書」を提出します。審査者は、基準に従って作成され、誓約の対象となった図書の記載事項について、図書間の整合性確認の一部を省略できます。そのため、対象となる図書と記載事項を、申請前に整理しておく必要があります。
大林組の合意形成会議には、意匠・構造・設備の設計担当者、BIM推進担当者、BIMデータの作成担当者、建築法制部門などが参加します。会議では、制度の概要、誓約書の記載内容、整合性確認を省略する範囲、役割分担、申請スケジュール、審査機関と調整する事項などを確認します。所要時間は、おおむね30分から1時間とのことでした。
BIM図面審査への対応は、BIM担当者だけで完結する作業ではありません。モデルからどの図書をつくり、何を誓約して申請するのかを、設計・法規・BIMの関係者が一つの方針としてまとめる必要があります。合意形成会議は、そのための場になっています。
3. 同じ情報を見ながら、指摘と修正を進める
大林組の事例では、建築確認に加え、構造計算適合性判定、省エネ適合性判定、消防同意にも確認申請用CDE「ArchSync」が利用されました。申請者と関係機関が提出図書や指摘事項、修正内容を共有できたことが、実務上の効果として紹介されています。消防機関からも、通常の電子申請と比べて大きく手間が増えたわけではなく、IFCデータを3Dで閲覧することで、建物内部の空間を直感的に把握しやすかった、という評価が紹介されました。
一方、制度開始直後のため、審査機関や消防機関とは、データの共有方法や通知方法を事前に確認する必要があります。共有する図書の位置付けや機関ごとの運用など、まだ整理すべき課題も残っています。
それでも、申請者と審査者が同じ情報を参照し、指摘や修正の履歴を一つの場所で共有できる意義は小さくありません。審査の効率化は、判断を自動化することだけではなく、まずは「どれが最新の図書か」「何を修正したか」を探す時間を減らすことから始まるのだと思います。
4.まずは、確実にできる範囲から始める
二つの事例を読むと、十分な準備が整わなければBIM図面審査を使えないようにも感じられるかもしれません。では、最初の一歩をどこから始めればよいのでしょうか。
セミナーではICBAから、意匠・構造・設備のすべてを一度に対象にする必要はなく、分野ごとにBIM図面審査を適用できることが説明されました。入出力基準のすべての事項を、一度に誓約の対象とする必要もありません。
たとえば、まずは意匠分野から取り組み、普段からBIMで作成している図書について、壁や柱、床、開口部などの形状情報をどこまで入出力基準に沿って扱えるかを確認する。まだ確実に対応できない事項まで無理に誓約せず、対象とする図書と記載事項を明確にする。そんな始め方もできます。
これは、制度の要件を曖昧にするということではありません。自社が整合性を確保できる範囲を明確にし、確実にできるところから始めるということです。
申請用テンプレートを、案件の中で育てる
最初から申請に必要な情報をすべてモデル化し、あらゆる用途や規模に対応できる万能なテンプレートをつくろうとすれば、それだけで大仕事です。吉川建設でも、最初から完成されたテンプレートがあったわけではありません。
すでにBIMを使っている場合は、普段のテンプレートと入出力基準を見比べ、手入力や二次元加筆が残る部分を一つずつ改善していきます。一方、これからBIMを始める場合は、公開されているサンプルモデルやBIMソフトの標準テンプレートを出発点にできます。まずは小規模な案件で試しながら、自社に必要な入力方法や図面化のルールを整えていく方法が考えられます。
5. 初回の経験を、自社のBIM活用につなげる
確認申請の実務は、申請書の様式や図面表現、審査手順、組織内の役割分担の上に成り立っています。そこへBIMやCDEを導入しても、従来の仕事がすぐになくなるわけではありません。移行期には従来の仕事に新しい作業が加わる場面があります。そのため、初回の案件では、かえって手間が増えたと感じることもあるでしょう。
ただし、その時点の作業量だけで効果を判断するのは早いと思います。吉川建設が整えた入力ルールやテンプレート、大林組が取り組んだ関係者間の合意形成は、どちらも次の案件に引き継げるものです。
BIM図面審査への対応は、社内のBIM活用を見直すきっかけにもなります。確認申請という明確な目的があることで、担当者ごとに異なっていた入力方法や図面化のルール、モデルの品質を確認する担当、設計者とBIM担当者の役割分担を、組織として整理しやすくなるからです。
一つひとつの案件で得た経験を、入力ルール、テンプレート、役割分担の改善につなげていく。その積み重ねが、BIM図面審査を一度限りの制度対応で終わらせず、自社のBIM活用を広げる足掛かりになるのではないでしょうか。
建築行政情報センター(ICBA)BIM推進課 萩原 大地
26/08/27開催 設計者のためのBIM図面審査対応セミナー_アーカイブ BIM審査ポータルサイト – ICBA
連載「BIM審査のすゝめ」は、特集「動き出したBIM確認申請」に収録しています。記事はこちら
