「BIM審査って、実際どうなの?」
BIM図面審査の制度の立ち上げに関わっていると、よく聞かれる質問です。でも、これって答えるのが少し難しいと感じます。どうしてかというと、「ここが一気に変わった」というわかりやすい変化をみせられれば、派手だし見栄えもいいのですが、なんというか、BIM審査になっても大きな変化があるわけではないからです。
たとえば、4月から始まったBIM図面審査では、審査対象となるのは「BIMデータから出力された図面」です。つまり、審査者が図面を確認して法適合を判断するプロセスは、従来とほぼ同じです。だから「何が変わったのか、よくわからない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、この点をもう少し詳しくみていくと、「BIM由来の図面であるからこそ、図面間の整合性確認を省略できる」ことになっており、この省略を実現するためにBIMの入出力基準や図面の表現標準が整備され、各社でまちまちだったものに、一定のルールが生まれました。これは一見地味に見えますが、今後BIMが基盤として社会のなかで機能するためには、大切なステップです。こんなふうに、それ自身は見えにくいですが、ひとつひとつが積み重なって、あるとき振り返ると大きく変わっている——そういう漸次的な変化になるので、きっと説明しにくいのだと思います。
こうした「表面からは見えにくいけれど、着実に進んでいく変化の現在地」を一貫してお届けしていくのが、この連載の役割です。制度に関わってきた立場から、正直に、具体的にお伝えしていくことができればと思います。
1. BIM図面審査の前史
BIM図面審査の制度化には、長い準備期間がありました。
2009年、日本の建築業界はBIMへの本格的な取組みを始めました。「BIM元年」と呼ばれるこの時期から、先進的な設計事務所やゼネコンを中心に導入の試みが広がり、様々な活用方法が模索されました。ただし取組みは各社まちまちで、業界全体として統一された方向性にはなっていませんでした。
転機となったのは2019年です。国土交通省を中心に「建築BIM推進会議」が設立され、設計・施工・審査・行政が一体となって取り組む体制が整いました。「使ってみる」から「活用する」への転換を明確な目標に掲げ、共通ガイドラインの策定や標準化の取組みが加速しました。
そして2026年4月、「BIM図面審査」が省令および告示の改正とともに正式に制度化されました。BIMデータから出力した図面を確認申請に活用し、整合性確認を省略できる仕組みの始まりです。2009年からおよそ17年。業界の地道な積み重ねが、制度という形に結実しました。
2. いまどこにいるのか、そしてこれから
こうした状況を踏まえて、私たちがいまどのステージにいるのかを整理しておきましょう。
現行のBIM図面審査は、BIMデータから出力した「図面」を審査対象にする制度です。BIMから書き出したPDF形式の図書とIFCデータを確認申請用CDE(Common Data Environment)にアップロードすることで、図面間の整合性確認が省略でき、確認検査機関・消防・適判機関がCDE上で同じデータを共有しながら審査を進められます。審査業務自体は変わらないように見えながら、データの流れと関係者間の情報共有のあり方は変わっています。
次のステージは、2029年春に始まる予定の「BIMデータ審査」です。こちらはIFCデータそのものが審査対象となります。これが実現すれば、審査に必要な情報が図面でなくCDEの画面の中で確認できることになり、従来の審査から変化が生まれます。
その先には、設計・審査・施工・保守のすべての工程でBIMデータが活用される姿が描かれています。建築業界全体の生産性を支えるインフラとして、BIMデータが定着する未来です。BIM図面審査は、その未来への第一歩です。
3. 実績と課題
BIM図面審査の制度が動き始めて数か月が経ちました。
申請の動きは着実に広がっています。2026年6月末時点で、事前相談・申請件数は35件、うち8件がすでに確認済証の交付に至っています。確認申請・構造計算適合性判定・消防同意がすべてそろった案件も1件生まれました。BIM図面審査が現実のものとして機能しはじめています。
先行事例に共通しているのは、すでにBIMを活用した業務フローを構築している設計者にとって、設計プロセスをほとんど変えずに使えているという点です。従来のBIM活用の延長線上で確認申請に臨めることが、制度の使いやすさにつながっています。
一方で、課題もあります。制度への理解不足や審査機関ごとの対応のばらつきにより、期待していた効果が出ず、かえって手間が増えたという声が、申請者および審査者の双方から聞こえてきます。新しい制度の揺籃期には避けられない側面ですが、制度やそのガイドラインの内容の周知を進めつつ、実際の事例を積み上げていかなければなりません。
これからの大きな課題は、BIM図面審査制度を利用する審査機関および消防機関の拡大です。大手機関にはご対応いただいているものの、審査機関全体からすれば対応数はまだまだ少なく、また、特定行政庁、構造適判専業の審査機関および消防機関にも対応いただけるかどうかが、今後の普及を左右する重要なポイントになっています。
4. このシリーズで追いかけること
このシリーズ「BIM審査のすゝめ」では、変化の現在地を数回にわたってお届けするつもりです。
第2回では、実際に制度を利用した設計者の事例を交えながら、実務がどう変わるのかをお伝えします。
第3回は「使ってみたい」と思ったときの疑問にお答えします。よくある質問をもとに、実践的な情報を届けます。
第4回では、審査側のツールであるArchSync(ICBAが管理/運営するCDE)の最新動向を紹介します。リリース以来、機能のブラッシュアップが続いています。
第5回は、2029年春の開始に向けて制度検討が進むBIMデータ審査についてレポートします。
第6回では、BIM審査の未来を業界全体でどうつくるかを語ります。既に決まっているのは6回ですが、今後も定期的に情報発信していく予定です。
「いつの間にかすごく便利になっている」を目標に掲げて、制度は地道に変化を積み上げています。変化は見えにくいかもしれませんが、確実に動いています。だからこそ、このコラムを読んでいる方には継続的にフォローしていただきたいのです。
そして可能であれば、変化に参加してみてください。BIM図面審査を実際に使ってみること、現場からの声を届けること——それ自体がこの変化をつくる力になります。
建築行政情報センター(ICBA)BIM推進課 阿部 玄
連載「BIM審査のすゝめ」は、特集「動き出したBIM確認申請」に収録しています。記事はこちら
