4月から動き出したBIM図面審査に、一歩を踏み出した設計者たちは、どのような思いで向き合っているか。オートデスクのBIMソフト「Revit」のユーザーから、梓設計の日高陽子BIM戦略室サブリーダー/BIMマネージャー、西松建設のデジタルコンストラクションセンター設計BIM課に所属する野老菜実副課長と尾毛谷阿弓主任、アーキ・キューブ一級建築士事務所の大石佳知代表取締役、オートデスクの田中宏尭技術営業本部テクニカルソリューション部テクニカルスペシャリストの5人に集まってもらった。座談会の後半では、2029年春に予定されているBIMデータ審査への思いを聞いた。
3年後へBIMの意義を実感して地道に

――BIMデータ審査への目線は
尾毛谷 BIMデータ審査の詳細がまだ出ていないため社内の準備はまだ動き出していません。ただ、IFCデータが審査対象になっている点で、整合性がとれているモデルや不具合のないモデルをつくるため、社内のテンプレートの更新やモデリングのチェック体制の強化が必要になるだろうという考えは持っています。
野老 これまでは設計図の出図を見据えたモデルづくりに注力してきました。BIMデータ審査になると、属性情報の設定も含めて対応していくことが重要になってきます。われわれ設計BIM課はあくまでもサポート役であり、設計者がモデルをチェックできる手法やツールを提供することが役割になると考えています。どこをチェックすればいいか、などモデルや属性情報のあり方も含めて整理を進めていく必要があると考えています。
田中 IFCデータに関して、BIM図面審査では細かなルールは定められていませんが、オートデスクが無償提供している「相互運用性ツール(Interoperability Tools)」を利用することで、IFC変換前にRevitモデルが一定のルールに沿っているかをチェックすることが可能です。IFC形式そのものについては、「IFCマニュアル2.0」で詳しく解説しています。生成AIの発達によって、Revitのアドイン開発のハードルが大幅に下がっています。専門的なプログラミング知識がなくても業務や組織に合わせたツールを作りやすくなり、BIM活用の裾野はさらに広がっていくと考えています。
日高 現在は図面をつくるためのBIMが重視されていますが、BIMデータ審査が始まるとモデルがどれだけヘルシーかという部分が重要になります。既に社内ではヘルスチェックというキーワードも上がっており、そこにはAIの活用が効いてくると考えています。設計者(人)がやったものに対するダブルチェックの部分でAIを活用した機能の実装などがこれから加速していくのではないでしょうか。
大石 BIMデータ審査はもう少し先のことだと考えていますが、BIM図面審査でテンプレートやファミリを見直してパラメータを追加する作業を進めていく中で審査のためのBIMモデルから、もう少し先を見据えたBIMモデルの考え方に変わっていくでしょう。つまり、施主と情報共有をしながら維持管理の部分までデータが生かせるような流れが明確になっていくと、設計者の役割もモデルの中身も変わってきます。そこまで見据えて、BIMデータ審査の意義を捉えていくべきだと考えています。

――BIM図面審査に対して様子見の流れがある
田中 BIMデータ審査が動き出す3年後の2029年が近づくにつれ、一歩踏み出そうという設計者が全国にたくさん出てくると考えています。BLCJからはサンプルモデルと一緒に、無理なくBIM図面審査に取り組むための3つのステップが示されています。この指標をぜひ参考にしてもらいたい。BIM特有の留意事項としてヒヤリ・ハット事例も紹介されており、とても参考になります。
尾毛谷 実は、BLCJの資料は当社も大いに参考にさせてもらいました。提示された入出力基準だけではイメージが沸かない部分も多くありましたので、BLCJの資料だけでなく、オートデスクが示したサポートガイドもBIMデータの修正や誓約書の作成に役立ちました。
大石 Revitユーザー会組織RUG(Revitユーザーグループ)からの情報発信も大いに役立ったと感じています。オートデスクには先行して取り組んでいる事例もぜひ積極的に紹介してもらいたい。皆で情報を水平展開することで業界全体にBIM図面審査が広がってくると思う。皆でBIMデータ審査に向かうことが重要になるでしょう。
日高 BIMははじめの一歩を踏み出すことが大変ですが、踏み出してしまえば大変なことばかりではないというのが私の感想です。BIMを推進している立場からすれば、設計者自身が納得感を持って取り組むことが何よりも重要です。まずはBIM図面審査ときちんと向き合って取り組んでほしい。それがBIMデータ審査にもつながっていくと考えています。
野老 社内ではモデリングやBIM図面作成のルール整理が一通りできており、それにより皆が取り組みやすい環境になりつつあります。当社の目標は設計者自身で図面審査に取り組んでもらうことです。設計者がなるべく労力をかけず取り組めるような準備を進めています。これから取り組もうとしている設計者の方々には入出力基準のルールに沿ってチェックリスト(誓約書)の作成に一度、取り組んでみることをオススメします。そうすれば取り組みやすい部分が見えてくると思います。そこから踏み出すことが近道になると思います。
田中 Revitは意匠、構造、設備をすべて扱えることが大きな強みであり、BLCJが公開するサンプルモデルでもRevit形式が最も充実しているといえます。さらにクラウドプラットフォームのFormaを使えば、BIMデータの確認(Forma Data Management)やAIを活用した企画・設計(Forma Site Design)を誰でもブラウザーベースで実施でき、より手軽に幅広くBIMに取り組める環境が整っています。

――BIM図面審査をきっかけに変化するものとは
日高 当社では2009年にBIMへの取り組みをスタートさせており、初期に構築したBIMワークフローが現在は少し変わってきています。BIM図面審査がスタートし、2029年春にはBIMデータ審査が動き出すことを踏まえ、改めてBIMで設計する際の部門間連携やワークフローを見直して、さらに成長させていきたいと考えているところです。
野老 社内では設計が求めるモデルと施工が求めるモデルが異なります。そこをうまく連携できるような枠組みを常に追求しています。BIM図面審査をきっかけに、そうした議論がさらに深まっていくと考えています。
大石 BIMには様々なメリットがあります。ワークフローを構築する中で、副産物的にBIM図面審査への対応が可能になるという捉え方をすることが良いと考えます。BIM図面審査は大きなインパクトであり、BIMを軸に日本の建築生産の流れが大きく変わるきっかけになります。
田中 BIM図面審査は柔軟な制度だからこそ、積極的にトライしてもらいたい。今は設計者だけでなく審査者も含め、社会全体でBIMに慣れ親しむフェーズとも言えます。その積み重ねが、3年後のBIMデータ審査をはじめ、より生産的な建築プロセスの実現につながるのではないでしょうか。オートデスクとしても、その土壌づくりに貢献していきたいと考えています。
日高 まさにBIM図面審査のインパクトは大きく、これから3年間がBIMデータ審査に向けたターニングポイントの期間になるでしょう。設計者はBIMに取り組む意義を実感しながら地道に取り組んでほしいと考えます。
尾毛谷 最初は苦労して試行錯誤しながら取り組むことになると思いますが、3年後のBIMデータ審査から対応しようというよりも段階を踏んでBIM図面審査から取り組むことで組織としての対応もしやすくなると思います。
野老 BIM図面審査が動き出したことで、BIMに取り組もうという動きが社内で広がり始めた企業は多いと思います。当社もそうでしたが、BIM図面審査を通じてBIMデータの活用をさらに進めるきっかけにしてほしいと願っています。
大石 設計者は図面の責任を負っていますが、今後はモデルの責任を負うことになります。それをネガティブにとらえるのではなく、自らの業務が広がって新たな付加価値として捉える前向きな捉え方をしてほしい。やらないといけないことが増える一方で、可能性が自分たちの仕事で広がっているという意識を持ってもらいたい。私だけでなくこの座談会に出席した4人の思いも同じと考えています。