AU2026 新たな潮流(3)

BIMからデータ活用へ、建設業変革を読み解く 
前田建設工業  曽根巨充 氏

1.はじめに

2026年9月15日から17日まで、米国ネバダ州ラスベガスで開催されたAutodesk University 2026(AU2026)に参加し、建設業界におけるBIM・DXの最新動向を調査するとともに、日本における実践事例をプレゼンテーションする機会を得た。

写真1 AU2026の会場 

AUは1993年に始まった世界最大級のAutodeskユーザーイベントであり、近年ではBIMだけでなく、AIやデジタルツイン、クラウド活用など建設業界の未来を展望する場として注目を集めている(写真1)。世界各国から約12,000人が参加し、日本からも過去最多となる約430名が参加したと聞いた。

特に今年は、AIの急速な進展を背景として、BIMの活用そのものではなく、プロジェクト全体のデータを活用した意思決定支援や、DfMA(Design for Manufacturing and Assembly)、建設の工業化といったテーマが数多く取り上げられていた。これらは日本の建設業が直面する生産性向上や担い手不足への対応とも深く関係している。

本レポートでは、まずAU2026への参加を通じて得られた建設業界の最新動向を紹介し、次に私たちが登壇したアトアレの発表内容を報告する。さらに、それらを踏まえ、BIMからデータ活用へと移行する建設業界の今後の方向性について考察する。

2.AU2026が示した建設業界の方向性

 建設業界は世界的に、熟練技能者不足や建設コスト上昇、サプライチェーンの不安定化といった課題に直面している。そのため、設計・施工・運用をデータでつなぎ、生産性を高める取り組みに期待が高まっている。

写真2 初日のKeynoteの開催状況

そのような中で毎年、全員が参加する初日の「Keynote」(基調講演)は、Autodeskが目指すこれからの方向性をプレゼンテーションする場だ(写真2)。今年は、AIと業界特化型クラウド(Industry Clouds)により「設計・施工・運用の全工程で、人の創造力と組織能力を最大限に引き出す」ことが大きなテーマとして掲げられた。

今回のテーマから分かるように、単なるBIMの活用から一歩進み、プロジェクト全体のデータを活用する「Project Intelligence」(プロジェクト インテリジェンス)の実現を強く打ち出した。BIMモデルや図書、工程、コストなどプロジェクト全体のデータを統合し、AIを活用して意思決定を支援する考え方である。従来、BIMの活用が「モデルを作る」ことに重点を置いていたのに対し、Project Intelligenceでは「データから行動につながる知見を得る」ことを目的にしている。

図1 Project Intelligenceの考え方(生成AIを用いて作成)

業界特化型クラウド(Autodesk Forma、Fusion、Flow)上で、人・データ・ワークフローを接続し、そこにAIを組み合わせ、Project Intelligenceを実現すると説明した(図1)。

 例えば、建築の現場で、仕上等の変更が発生した場合、従来は施工管理者が「図面を確認 ⇒ 関連図書を確認 ⇒ 協力会社へ確認 ⇒ 工程への影響を確認」してきた。一方、Project Intelligenceでは、AIが「BIMモデル ⇒ 見積書 ⇒ RFI(質疑書) ⇒ 施工図 ⇒ 工程表 ⇒ Autodesk Formaの各種文書」を横断的に確認し、「工程に5日の影響がある」、「関連する仕上図は4枚ある」、「同様の変更が過去2件発生している」などの情報を提示する。

Autodesk Formaに関する発表では、特に次世代のAutodesk Assistantが、単なるチャット型AIではなく、プロジェクトデータを理解しながら業務遂行を支援するエージェント型AIとして紹介された。

具体的なAIとして、以下が挙げられた。

・Submittal review agent:施工図や承諾図書と仕様書を比較し、不整合箇所を抽出するAIである。

・Bid proposal agent:見積比較業務を支援するAIである。協力会社から提出された見積書PDFから、内訳や数量、除外項目を自動抽出し、見積担当者は比較作業に費やす時間を削減できえる。

これらのAI機能は、承諾図書の確認や見積比較、文書検索など、設計者や施工管理者が担ってきた確認・照合の業務を支援するものである。今後、図書間の整合性確認や品質管理の進め方が変化していくことを予感させた。このような世界を目指すには、そろそろBIMのモデリングによる可視化や図面化などを中心としたBIMの活用から、正しいデータを作成・連携・活用する共創型のワークフロー(データの流通・蓄積)に取り組む必要性をあらためて感じた。

3.前田建設の発表

 AU2026では、3日間で528のセッションとハンズオン(実際に操作をして新機能を体験すること)などが提供されていた。日本企業が発表するセッションは前田建設を入れて7つである。AUのセッションに登壇するには、公募の中から採択される必要があり、狭き門だ。

図2 プレゼン資料
写真3 登壇者(左:渡邉さん、右:筆者)

 私たちは今回、鉄筋/配筋BIMシステム「At_ARe」の取り組みをテーマとしてAU2026に登壇する機会を得た(図2)。アトアレは、前田建設が開発した鉄筋/配筋BIMシステムの名称であり、鉄筋工事のDX事例である(Code: CS2912)。登壇者は私と渡邉寛也氏の2名だ(写真3)。

写真4 会場の様子

 プレゼンテーションでは、アトアレのシステム概要/開発思想や新しい業務のワークフロー(シン・ワークフロー)、適用事例などを説明した(写真4)。

図3 シン・ワークフロー

シン・ワークフローは、設計段階からアトアレを使用して施工性を検証し、その結果を構造設計図に反映させることで、施工段階において鉄筋納まりや干渉問題の約90%以上が解決できる業務の進め方だ(図3)。施工段階において解決していた課題を設計段階で解決する取り組みは、日本において30年以上前からフロントローディングや生産設計などの呼び方で始まっており、古くて新しい取り組みでもある。が、いまだ試行錯誤の中にある企業も多い。

図4 シン・ワークフローを実現するためのアトアレ

アトアレの思想は、単に検討作業を前倒しするような精神論ではない。前倒しの検討を大きな負荷なく実現させることを目指す考え方である。具体的なソリューションとして、①シン・ワークフロー、②施工管理者・鉄筋専門工事業者の知見を体系化する鉄筋エンジニアリング・チームをインハウスに設置、③過去のプロジェクトで蓄積した判断ルールの標準化、④BIMによる自動化、の4つを統合していることが特徴だ(図4)。

構造設計者や施工管理者、専門工事業者の知見を標準化・データ化し、エンジニアリング・チームをインハウスで構築する。BIMにより自動配筋や自動干渉チェック、自動配筋検査などが実現したことで、RFI(質疑書)や工事手戻りを大幅に削減できた。単なるBIMの活用ではなく、施工ノウハウをデジタル資産として蓄積し、人による意思決定を支援するとともに、将来的なAI活用につながる取り組みを目指している点も示した。つまり、「経験と勘に依存していた施工判断を、標準化された知識や蓄積されたデータを活用して支援する仕組みへ転換した」とも言えるだろう。

 このようなイベントでは、AIや自動化に聴衆の注目が集まりやすいが、その前提となるのは、業務ルールや判断基準が整理され、信頼できるデータが蓄積されていることである。その意味でアトアレは、鉄筋モデル作成の効率化だけではなく、施工判断を構成する知識や経験をデータとして体系化する取り組みであり、将来のAI活用に向けた基盤整備と位置付けることができるだろう。

写真5 登壇の様子(筆者)
写真6 登壇の様子(渡邉さん)

 セッションには50名弱の参加があった(写真5、6)。セッション終了後の質疑では、海外参加者から「構造計算データとの連携方法」、国内参加者からは「各種ルールに関する内容の深堀り」などがあった。

 アトアレの具体的な取り組みについては、特設ホームページや弊社のニュース・リリース、今回の講演資料をご参照いただくとして、ここからはアトアレの取り組みの方向性と「Keynote」で示された業界の方向性と照らし合わせながら取り組みを考察してみよう。

国内でBIMの活用というと、3次元モデルの作成や干渉チェック、図面作成などの用途に注目が集まりやすい。しかしながら、それらはBIMの活用の重要な側面ではあるものの、それだけでは取り組みの効果を享受しにくいことは、BIM推進者の多くが知っている。将来的にもより大きな効果を享受するには、データを継続的に蓄積・活用し、意思決定につなげる仕組みづくりまで発展させることが望まれる。が、いまだそのような事例は多くないと思われる。

図5 アトアレに取り組む目的

今回のプレゼンテーションでは、アトアレの取り組みの目的を「設計段階で課題を解決すること」ではなく、「施工不具合で工事をやり直す費用を無くす!」、「施工段階で施工者が構造設計者に出すRFIを無くす!」、「自動化によりモデル作成作業や調整作業、図面化などを自動化して検討作業を楽にする!」といった構造設計者や施工管理者の言葉で可能性を具体的に示した(図5)。つまり、設計段階で課題を解決することは目的ではなく、目的を達成させる手段と位置づけているのである。

これは、「BIMモデルを作ること」そのものではなく、「BIMモデルを活用して施工リスクを予見し、適切な意思決定につなげること」を目指した取り組みであると言い換えることができる。

登壇者として各国の参加者との議論やセッション聴講を通じて、アトアレが目指してきた方向性は、「Keynote」で示されたデータ活用やAI活用の将来像に近いと感じた。一方で、鉄筋工事という分野は、Generative DesignやAIの取り組みに比べると、目立つようなテーマではないかもしれない。しかしながら、AIが有効に機能するためには、品質の高いデータの蓄積に加え、業務ルールや判断基準が整理・構造化されていることが重要であり、その基盤構築なくして高度な活用は実現できない。

図6 鉄筋配置を標準化
図8 Autodesk Formaのデータ

アトアレでは、1,300以上の自動配置ルール(図6)や300以上の自動干渉調整手順の標準化(図7)、187の自動配筋検査項目を実現しているとともに、Autodesk Forma上で、プロジェクトレビューにおける指摘内容、対象モデル要素、対応結果、判断理由等の情報の蓄積を始めている(図8)。これらは、施工に関する知識や判断プロセスをデジタル資産として蓄積する取り組みであり、将来的なAI活用を支える知識基盤の整備とも捉えることができると考えられる。

(参考)鉄筋工事に関する他社の発表概要

鉄筋に関するセッションは、弊社を除くと2件実施された。

一つ目は、チリの建設テック企業であるAEC SHIFTによる発表だ(Code:CS2250)。鉄筋情報や形状データなどをチリ国内の業界標準として整備・活用する取り組みが紹介された。チリは日本と同様に世界有数の地震多発国であり、チリ国家標準化機関(INN)を中心に、鉄筋規格や品質管理の標準化が国レベルで推進されていることを知ることができた。

また、近年は建設分野において工業化やデジタル化への関心が高まっており、鉄筋のトレーサビリティ確保やBIM活用を含めた標準化の取り組みも進展している。こうした動向から、設計データを起点として、鉄筋の製作・加工・施工までをデジタルに接続する一気通貫型の生産プロセスへの移行が今後さらに加速する可能性を感じた。

二つ目は、フランス系ソフトウェア企業であるGRAITECによる発表である(Code: BLD2116)。構造解析モデルを起点として、配筋設計や鉄筋数量算出、配筋モデル生成、さらには図書作成までを自動化するソリューションが紹介された。従来、構造設計者と施工者、鉄筋加工業者の間で個別に行われていた作業をデジタル上で連携し、設計品質の向上と大幅な省力化を実現する内容であった。

両セッションに共通していたのは、自動配筋技術そのものよりも、それを支えるデータ標準化と業界横断の連携基盤に重点が置かれていた点である。日本では優れた個別技術が数多く存在する一方、企業や工程を超えたデータ連携はまだ発展途上の段階にある。海外では、設計データを起点として加工・施工までを一貫して接続するデジタル生産基盤の構築が業界全体で進められており、今後の競争力の源泉は個別技術だけでなく、業界全体で活用できる標準化や情報連携の仕組みが肝要になることを感じた。

4.建設業界の動向

BIMの次に来るキーワードは「DfMA」であろう。アトアレで進めているルール化や標準化の考え方は、DfMAの思想とも共通している。DfMAは単なるプレファブ化ではなく、設計段階で施工や製造を考慮し、再利用可能なルールや部材として管理することで生産性向上を目指す考え方だからだ。

AU2026においても多くのセッションでDfMAの考え方が紹介されていた。設計段階から製造・施工を考慮するアプローチとして、海外ではBIMの次の活用段階として位置付けられており、設備モジュール化やプレキャスト部材製造連携、MEPユニット化、などのように工場製作と連携する事例などが紹介されていた。

設計段階で作成したBIMモデルをそのまま製造データと連携し、現場では組立中心の施工へ移行する流れが見られた。労働力不足や生産性が低いことは、なにも日本だけの課題ではなく、世界共通の建設業界の課題のひとつである。品質向上だけでなく、工期短縮や労働力不足対策、安全性向上などを実現する手法として採用が期待されている。

16日(2日目)に開催された「Industrialized Construction Summit」(建設の工業化・産業化フォーラム)では、Informed Design(設計と施工を接続して建築設計や建設工程を効率化)に関する現状と展望が報告された(Code: AS2611)。

これまで建設業では、プロジェクトごとに個別対応する「プロジェクト型生産」が主流であった。しかしIndustrialized Construction(建設の工業化)では、製造業のように設計情報や部材を標準化し、継続的な改善を行う「プロダクト型生産」への転換を目指している。この発想の転換こそが、従来型建設との本質的な違いである。Industrialized Constructionは、設計・製造・施工をデジタルデータで一貫して連携することで、プレファブ化やモジュール化、DfMA、自動化技術を統合し、品質向上や工期短縮を目指す建設手法と言えるだろう。

報告の中で、各国の工業化に関する調査結果が示され、日本やドイツが実践レベルで先行していることが紹介された。確かに日本では超高層集合住宅に見られるプレキャスト化やUB、プレカット工法、事務所ビルにおける設備のユニット化などの取り組みが一般的になっており、部分的な採用ではあるものの、海外から見ると取り組みが先行しているように見える模様だ。北米やUKでは関心は高い一方、実際の導入・標準化はこれからの段階と評価された。特筆すべきは、日本やドイツにおいては、施工者が設計者に必要条件を説明することが多く、協働性の高い関係がみられる、と指摘している点だ。わたしたちが日常で実施している専門工事業者との共創は、海外から見ると進んでいると言えるだろう。

写真7 打合せの状況
図9  Industrialized Construction のイメージ(生成AIを用いて作成)

講演後にはスピーカーでありオートデスク社で戦略の企画分析をしているAz Jasat氏と意見交換をする機会があった(写真7)。意見交換の場でAz氏からは、「建設の工業化はレゴに似ている」という印象的な説明があった。確かにレゴブロックは限られた部品の組み合わせにより無数の製品を生み出しているが、その背景には部品の規格化と標準化があることに注視すべきということだ(図9)。

建設業界においても同様に、工業化の本質は単なるプレファブ化ではなく、「製品化(Productization)」にあると考えられる。つまり、プロジェクトごとにゼロから検討するのではなく、再利用可能な設計ルールや部材、施工プロセスを標準化し、それらを組み合わせて価値を創出する考え方である。

その実現には、受注者だけではなく、発注者やサプライチェーン全体を含めた取り組みが求められる。また、設計段階から製造や施工条件を考慮できる環境を整備し、デジタルデータを軸として設計・製造・施工・運用をつなぐ新たなプロセスの構築も重要になる。今回紹介された海外事例からも、BIMを単独で活用する段階から、設計・製造・施工・運用にわたるデータ活用基盤として位置付ける方向へと発展していることが確認できた。

Industrialized Constructionの実現には、プロジェクトごとの個別最適から脱却し、再利用可能な設計ルール、部材、施工プロセスを整備する必要がある。また、受注者だけでなく発注者やサプライチェーンを含め、設計・製造・施工・運用の各段階をデータでつなぐプロセスの構築が求められる。

 この考え方をアトアレに当てはめると、次のステップとして、個別案件の設計段階より前に「Product Design」の段階を設け、過去の検討結果や判断基準を再利用できる仕組みを構築する方向性が考えられる。

図10 アトアレ2.0

設計開始前から過去の検討結果や判断基準を活用することで、検討作業のさらなる自動化を目指すのである。つまり、私たちの次の目標は問題を解決することではなく、発生する前に防ぐことである。過去の知見を活用し、配筋設計の検討作業を最小化する、次世代の「アトアレ2.0」として、その実現を目指していきたい(図10)。

5.おわりに

AU2026で示された方向性は明確であった。それは、BIMモデルを作成することを目的とする時代から、設計・製造・施工・運用に関わる多様なデータを連携し、組織の知識として活用する時代への移行である。

AIやConnected Data、DfMA、デジタルツインは、それぞれ独立した技術ではなく、この変革を実現するための手段として位置付けられていた。もちろん「データに基づく意思決定」は、AIが人の判断を代替することを意味するものではなく、業務ルールや過去の実績データを体系化・活用することで、人の判断を支援し、その再現性や品質を向上させる取り組みを指す。

今後の競争力を左右するのは、どれだけ高度なBIMモデルを作成できるかではない。BIMをはじめとしたプロジェクトデータと業務知識を継続的に蓄積し、組織の知識資産として活用できるかである。海外で先行しているように個社の標準化ではなく、業界全体で取り組む標準化も重要な視点のひとつである。

今回のAU2026は、このような建設業の未来像を具体的に示した場であった。そして同時に、私たちがアトアレで進めてきたワークフローや知識の標準化、データ活用の取り組みが、世界の建設業界が目指す方向と一致していることを再認識する機会となった。

日本の建設業においても、技能者不足、生産年齢人口の減少、インフラ老朽化といった課題への対応が求められている。その解決には、経験や勘に依存した従来型の業務プロセスから脱却し、データや蓄積された知識を活用し、人の意思決定を支援する仕組みづくりが不可欠になる。

建設業は今、大きな転換点を迎えている。BIMからDfMAへ、さらにオフサイト建設、デジタルツインへと続く変革の流れを見据えながら、今後もデータを活用した新たな価値創出に取り組んでいきたい。


 連載「AU2026 新たな潮流」は、オートデスクの国際カンファレンス「AU」に登壇、参加した日本の実務者からのメッセージとなります。彼らは何を感じ、そしてどこに向かおうとしているか。AUをきっかけに広がるそれぞれの潮流をリポート形式で紹介していきます。執筆一覧はこちら

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