連載 時代は情報マネジメントへ(3)

なぜ運用段階でBIMはうまくいかないのか? 
BIMプロセスイノベーション代表 伊藤久晴

 設計施工のBIMモデルやその情報を、施設の運用後の維持管理や運用段階で活用しようとする取り組みは、これまでも多く行われてきた。しかし、十分に活用できているといえる事例は、まだ多くない。建築BIM推進会議のガイドラインでも、維持管理BIMは点線で示され、連携が不十分とされている。

 日本では、維持管理BIMというのを、「BIM モデル(3次元モデル)に点検履歴、補修記録、劣化状況、設備機器の仕様・性能情報等を関連付けること」と考えられている。つまり、設計施工で使用したBIMモデルを竣工後の運用段階でも活用しようという発想から、連携ができないと考えている。

 数年前に、ある発注者側の立場の方と意見交換を行った。その時に、はっきりそのような維持管理BIMはいらないといわれた。そして、「運用段階において、3次元のモデルを使う必要もないし、使える人もいない。3次元の日常の点検補修のために、大きなコストをかける意味はない。」という意見であった。

 これを整理すると、下記のようになる。

  • 3次元のBIMモデルを扱える人はいない。
  • 普段おこなっている日常の点検・管理業務を3次元モデルでやる必要はない
  • 建物の増改築や修繕に、リアルタイムに3次元形状を変えるということを維持できない
  • 3次元のBIMモデルによる維持管理BIMは、人を用意しコストもかかるため採算が合わない
  • 建物の維持管理・運用は、50年~100年単位であり、その間その技術が維持される保証はない

 このように考えると、設計施工に携わった企業は、設計施工で作成した3次元のBIMモデルを、なんとか竣工後の運用段階で使ってもらおうといろいろ画策しているが、実際は運用側では必要としていないのが現実なのではないかと考えられる。

設計施工のBIMモデルの必要性を感じていない発注組織のイメージ

 では、竣工後の建物の運用段階に、課題や問題はないのであろうか?私は、この運用段階の活動に、様々な課題を抱えているのではないかと考えている。

 例えば、次のような問題や課題をかかえているのだと考えられる。

  • 維持管理・運営を担う人材の高齢化や人手不足
  • 竣工図面や点検記録が保管されているだけで、デジタル化されていないため最新版管理が難しい
  • FMシステムや会計システムなど、様々なシステムが個別に動いており複雑化している
  • 多数の施設を管理している場合、老朽化施設の故障や修繕に手間取る
  • 維持管理・運用を行うための人件費やエネルギーコスト上昇などの管理コストの増大

 このような課題や問題点に対し、3次元のBIMモデルを使うことで、解決できるものもあるかもしれないが、それらに対応する余裕はないというのが、維持管理BIMは必要ないといわれた原因なのではないだろうか?

 実は、設計施工段階から運用段階のつながり方について、大きな勘違いがある。設計施工から運用段階へのつながりは、3次元のBIMモデルではなく、設計施工で作成した情報なのである。

 ここで、運用段階の情報マネジメントについて定めたISO 19650-3:2020を少し紹介しよう。それは、既存の企業システムを把握し、そこで必要となる情報を整理し、それらをAIM(Asset Information Model)として適切に管理することから始める。複数の企業システムで同じ情報を必要とする場合、その情報を適切に管理・連携することにより、重複した情報入力や不整合を減らすことができる。

 そしてAIMを構築するために必要な情報を、設計施工の発注条件として、EIR(情報交換要求事項)に入れておき、元受け受託組織から入手しようという考え方である。AIMは、運用段階において、常に更新され維持されるものでなければならない。

AIMを中心に様々な企業システムを運用しているイメージ

 わかりやすくいうと、例えば資産管理台帳を最初に作成するとき、どの部屋にどのような設備機器があり、そのメーカー名や品番、さらに室外機がどの室内機や系統につながっているかなどを把握しなければならない。これらの情報が、発注組織が要求する書式で設計施工段階から引き渡されるのであれば、発注組織は資産管理台帳を一から調査して作成する必要はない。設計施工段階では、BIMモデルを含む様々な情報コンテナの中で、こうした情報が作成・管理されている。運用段階で必要となるこれらの情報を、設計施工段階で適切に作成し、要求した形式で引き渡してもらうことも、発注組織が設計施工に求めるべき事項の一つであろう。

 このように竣工後の運用段階が抱えている様々な問題や課題を解決するために何ができるかという発想で考えるべきで、設計施工の情報を渡せばそれでいいという問題ではない。運用段階を担う各社が、デジタル化・業務の効率化を考え、そのために情報マネジメントを導入すべきであろう。BIMモデル自体を連携するということもないわけではないが、それにより、維持管理だけでなく運用全体において、どのような価値があるかを検討しなければならない。

 竣工図の保管でさえ、デジタル化されておらず、図面(製本)で管理されている場合も多い。しかも、修繕や増改築によって図面が増え、最新版の管理が追い付かず、どれが現在の状態を示す図面なのかわからなくなることもある。そのため、改修のたびに現況調査や測量を行わなければならない場合もある。こうした図面や関連情報をデジタル化するだけでなく、常に最新の状態として管理していくことも、運用段階の情報マネジメントに求められる。

 ISO 19650は、情報を適切に管理し、関係者間で共有・活用するための情報マネジメントの枠組みを示した規格である。そこでは、すべての関係者に対し、管理すべきすべての情報を、マネジメントしてゆこうというものであり、そこには3次元のBIMモデルも含む場合もあるが、それだけではない。維持管理BIMを考える出発点は、設計施工で作成したBIMモデルをどう使ってもらうかではない。運用段階にどのような課題があり、それを解決するためにどのような情報が必要なのかを考えることである。

 運用段階の情報マネジメントは、設計施工を行う企業の視点から考えるのではなく、運用段階に携わる組織が、自らの業務改善にどうつなげるかという視点で考える必要がある。

伊藤久晴 (BIMプロセスイノベーション代表/応用技術 技術顧問)https://bimhub.jp/


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