特集 BIMとの向き合い方

自分の感覚で、いいとこどりを実践しよう 
YNAA 中山佳子さん

 「プロジェクトデザインで共感を空間化する」という理念を掲げて活動する一級建築士事務所・中山佳子設計企画(YNAA)代表の中山佳子さんは、オートデスクが主催したラウンドテーブルの基調講演で「いいとこどりに徹している」と、自身が常に心がけているBIMとの向き合い方について熱く語った。

 前職の日本設計から独立したのは2024年。「プロジェクトの構想段階からクライアントに寄り添い、課題や問いを再定義してビジョンを策定するところからお手伝いすることを重視している」。社名にあえて「設計企画」と付けたのは、アウトプットの形として「建築だけにこだわらずインテリア、まちづくり、サインデザインも含めて幅広く手がけていきたい」という思いからだ。

 そうした意識が芽生えたのは社会人となった2011年にさかのぼる。「この年から日本の人口減少が始まった。建築を新築することが前提だった時代は転換点を迎え、つくることだけが正解ではないという意識を建築関係者が抱き始めた境目の年でもある」。そうした時代の変化が、建築家としての中山さんの考え方を形づくった。

 YNAAの「Y」には「三方良しのプロペラ」という意味を込めている。事業者、利用者、社会に応えるコンセプトをしっかりと提示することを、常に意識してプロジェクトと向き合っている。「プロジェクトデザインで共感を空間化する」という社としての理念には、プロジェクトに関わる全てのステークホルダーに向けた目線を大切にしている思いがある。

オートデスク主催の内装ラウンドテーブルで基調講演した中山さん(壇上左)

 中山さん自身がBIMを設計ツールとして活用し始めたのは2015年からだ。所属していた日本設計がオートデスクとBIM導入に向けたパートナーシップを締結したタイミングに合わせ「周囲が関心を示さない頃から自発的に取り組み始め、いろんな人に質問して試行錯誤しながら習得した」ことを今でも鮮明に覚えている。

 これまでにBIMを使ったプロジェクトは20件に達する。2022年9月に完成した自邸「INOKASHIRA2.0(まちと公園を纏う家)」では、黎明期のBIM確認申請にチャレンジした。「形状の可視化と属性情報の共有化がBIMの利点であり、計画だけでなくライフサイクル全般を通して使っていける部分にも共感できるが、BIMは万能で何でもできると勘違いしてはいけない」と考えている。

 建築設計事務所のBIM導入が広がる中で、全面導入に踏み切る事務所も少なくない。「推進組織を設けて最後までBIMでやりきるのはとても大変で、多くの時間と労力がかかる。気が付くとアンチが増えてしまい、ブレーキがかかってしまうことにもなり兼ねない。BIMにも得意、不得意があることをきちんと理解し、私自身は完璧なBIMを目指すのではなく、BIMのいいとこどりに徹している。BIMには様々な機能があり、プロジェクトごとにフィットする機能を取捨選択していくことが、BIMを有効に活用する進め方ではないか」

バスターミナル東京八重洲 第1期エリア: 撮影:ToLoLo studio、出典:UR都市機構

 2022年9月に完成したバスターミナル東京八重洲第一期エリアは、中山さんが日本設計時代に責任者として空間デザイン・ディレクションを手がけた作品で、日本インテリアプランナー協会が主催する「インテリアプランニングアワード2023」の最優秀賞はじめ、国内外で11もの賞に輝いた。

 「私はプロジェクトごとに様々な手法をBIMと組み合わせて実践している。そうした取り組みを『BIMの花』と名付けている。バスターミナル東京八重洲では再開発事業の一部であり、多勢多様なステークホルダーとの合意形成が要であったため、コミュニケーションツールに特化した「BIMの花」を咲かせた。プロジェクトの特性に合わせてBIMの花は形を変える」

「BIMの花」ダイアグラム(出典:中山佳子設計企画)

 2023年から現在まで共用部改修デザインを行っているコレド日本橋では、点群データを取り入れた「内装改修の花」が咲き、現在進行中の茨城県における住宅改修設計では「伝統建築物改修の花」が育っている。「空間コンセプトの具現化に向け、プロジェクトに特化した固有の手法とBIMを組み合わせている。それは意思のある空間を実現させるための手段に過ぎない」

 関係者が多岐にわたったバスターミナル東京八重洲ではBIMを合意形成の手段として機能させた。主要ディテールはあえてBIMを使わず手書きで描き、原寸大のモックアップを作り、光の見え方を検証した。「BIMで完璧なデータを作りこむことを目標とすると、かえって非効率になってしまう。自分の感覚でBIMを効果的に活用する、いいとこどりの使い方をぜひ実践してほしい」

 クリエイティブな検討に「少人数でいかに時間を割けるかが重要」という中山さん。3方良しの空間づくりを実現するためには「多角的な視点から継続的な検討が必要」であり、BIMは有効なツールであると考えている。そこには「時代をつくり、社会のまんなかで貢献したい」という建築家としての思いが根底にある。

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