連載 失敗しない現場ICT術(2)

3次元スキャンの「三国時代」現場で何を選ぶか① 
染谷俊介 デジタルコンストラクション染谷技研代表

 前回は、2026年4月に本格始動した「BIM図面審査」を取り上げた。BIMという計画データそのものを審査に活用する時代の到来だ。ただし、計画通りに現場が仕上がっているかどうかは、計画データだけでは分からない。そこには必ず、現場の「今」という実態データとの突き合わせが要る。BIMの実務活用が進めば進むほど、その裏側にある実態データ側の技術――3次元スキャン――の重要性は増していくというのが、私の実感だ。今回は、その3次元スキャン技術を取り上げたい。

 現場の「今」を3次元データに落とし込む技術が、急速に多様化している。地上型レーザースキャナー(TLS:Terrestrial Laser Scanning)から始まり、ドローン、ハンディタイプへと取得手段が広がる一方、データの表現形式も「点群」「メッシュ」「3DGS(3D Gaussian Splatting)」の三択時代に突入した。目的に合わせて使い分けられる現場担当者が、この分野の主役になる。

「高級技術」としてのPoC時代――なぜ実務に広がらなかったのか

 点群データと計画データとの比較検証自体は、決して新しい発想ではない。私自身、ゼネコンの技術研究所に在籍していた10年以上前から、この分野に携わってきた。ただし当時の3次元スキャンは、今よりもずっと「高級な技術」だったというのが実感だ。地上型レーザースキャナー本体は数百万円から二千万円級、専門の点群処理ソフトも導入に数百万円、計測自体を外部委託すれば日額数十万円――そんな価格感が当たり前だった。

 当然、こうした機材と知見を自前で持てるのは、専門の測量会社か、大手ゼネコンの研究所くらいのものだった。実務への展開は、あくまで研究所主導のPoC(概念実証)が中心で、「現場が自分たちの手で使う技術」にはなかなかなり得なかった。

 実務展開を阻んでいた壁は、突き詰めると「人・もの・仕組み」の三重苦だったというのが、当時を知る人間としての実感だ。「もの」は機械・ソフトの導入コストそのもの。「人」は、計測手法の選定や体制構築を担うマネジメント人材と、実際に機材やソフトを操作するオペレーション人材の両方が、社内に育っていなかったこと。そして「仕組み」は、3次元計測を実務で使う際に誰が何をすべきかという業界のルール・ガイドラインが存在しなかったことだ。外注先に指示を出す社内担当者自身に点群データをマネジメントするスキルがなければ、いくら機材が優れていても実務には根付かない。

取得手段の進化:重い・高い・遅いから、軽い・安い・速いへ

 かつての3次元スキャンの代名詞はTLS(Terrestrial Laser Scanning:地上型レーザースキャナー)だった。三脚に据え付けた機器を数か所設置して計測、後処理に数時間——それが10年前の標準だった。

FARO社製TLS「FOCUS3D」(筆者撮影)
Z+F社製TLS「Imager5016」(筆者撮影)

 その後、ドローンが登場し、上空から短時間で広範囲を取得できるようになった。さらに現在は、SLAMという自己位置推定技術を使ったハンディ型スキャナーが急速に普及している。手に持って歩くだけで室内の点群を数分で取得でき、機器重量は数百グラム台、価格も急速に下がっている。iPhoneのLiDARを使ったスキャンアプリも建設現場での活用事例が蓄積されつつある。

 「専門業者に依頼するもの」から「現場担当者がスマホや小型機器で自分でやるもの」へ——スキャンの民主化が起きている。

 もう一つの大きな変化は、特殊な機材を使わない「ソフトウェア処理中心」の手法が増えたことだ。ステレオカメラ方式やSfM(Structure from Motion)のように、通常のカメラで撮った画像だけを使い、ソフトウェア処理のみで3次元形状を復元する技術は、専用の測距機材を必要としない分、導入のハードルを大きく下げた。かつては測量会社やゼネコン研究所が抱え込んでいた「人・もの・仕組み」の壁は、この10年でかなり低くなったというのが、当時から現在までを見てきた実感だ。

3種類のデータ形式:それぞれ何が違うか

 では、実際に3次元スキャンを実施したときに、どのようなデータが得られるのだろうか。10年前は、3次元スキャンの成果物と言えば「点群データ」と言われる3次元情報がスタンダートであった。現在は、スキャン手法や機器によってはメッシュデータが取得できたり、最近ではガウシアンと言われるデータも登場した。使用する機器の選択以上に、3次元スキャンで扱うデータの違いや選び方が分からない、という現場の声をよく聞くので、簡単に整理してみた。

点群(Point Cloud

3次元空間上に浮かぶ三次元座標(X、Y、Z)と色情報(R、G、B)の集合体。レーザースキャナーやドローンLiDARで取得される最も基本的な形式だ。形状や寸法を正確に表現できる一方、データが重く取り扱いにくいという課題がある。建設・土木における「現況把握」「出来形確認」「計測」の分野で長年活用されてきた実績があるが、拡大すると点の隙間が目立ち、視覚的なリアリティはメッシュや3DGSに劣る。

渋谷駅前ハチ公像の点群データ全体像(筆者撮影・作成)
同・拡大表示(筆者撮影・作成)

メッシュ(Mesh

 点群を「つなぎ合わせて面にしたもの」で、三角形平面の集合体で3次元形状を表現する。フォトグラメトリー(写真測量)の場合は、この三角形の表面に写真画像を貼り付けているだけなので、データが軽く視認性も良い。ただし、面が三角形の集合であるがゆえに輪郭がカクカクになりやすく、形状再現度は点群に劣る。CADやBIMとのデータ連携がしやすく、3Dプリンターへの出力や物理シミュレーションにも対応できる一方、大規模な現場のメッシュ化はデータ量が膨大になりやすく、処理負荷が高い。

渋谷駅前ハチ公像のフォトグラメトリー(メッシュ)全体像(筆者撮影・作成)
同・拡大(三角形メッシュの頂点表示)

3D Gaussian Splatting3DGS

 2023年に発表されて以来、急速に注目を集めている新技術だ。これも画像のみで作成できるデータである。「点群の各点を、色付きの楕円体(ガウシアン)というモヤのような広がりを持つ点として表現する」のが核心で、点と点の隙間を埋め、滑らかで写実的な3D空間を生成できる。ガラスや水面など反射の強い素材の再現が得意で、現実空間を「そのまま切り取ったような」ビジュアルを実現し、三者の中では視認性が最も高い。ただし、そのままでは表面がぼやけているため、形状再現度は点群やメッシュに劣る。

 3DGSの作成にはドローン空撮映像や、ハンディスキャナーで取得したSLAMデータを活用できる。ただし、精密な寸法計測や、BIM/CIMデータとしての直接利用にはまだ制約があり、「視覚的な現況共有」「施主・発注者へのプレゼン」「進捗の時系列記録」での活用がまず有効だ。

渋谷駅前ハチ公像の3DGS全体像(筆者撮影・作成)
同・拡大(ガウシアンのモヤが視認できる)

三者の比較と使い分け

形式データの特性向いている用途不得意な用途
点群形状・寸法を正確に表現できるが、データが重く取り扱いにくい出来形計測、BIM/CIM連携、土量計算 暗所視覚的なプレゼン、動的な閲覧体験 黒色・透明・鏡面素材
メッシュ写真画像を貼り付けるだけで軽量・視認性は良いが、輪郭がカクカクになり形状再現度は点群に劣るCAD連携、3Dプリント、物理シミュレーション 曲面・複雑形状大規模現場のリアルタイム処理 暗所
直線、平面の表現
3DGS三者の中で視認性は最も高いが、表面がぼやけて形状再現度は低い建築主向けプレゼン、進捗共有、複雑形状の視覚化 ガラスなど透明素材の再現精密計測、BIMへのデータ変換 暗所

それでも残る「組み合わせの壁」――用途ごとに正解が違う

 ここまで読むと、3次元スキャンはすっかり手軽な技術になったように思えるかもしれない。しかし実務の現場で今も苦労が絶えないのは、用途によって求められる精度・所要時間・費用の条件が驚くほど多様で、機械とソフトの組み合わせをユーザー自身が設計しなければならないという点だ。

 例えば、現場で品質管理用途に活用するためには、数ミリ精度が求められるし、計測から結果出力まで短時間でのフィードバックが求められる。それなら現状はTLS一択だが、そのスピード感でデータを処理する手段がなく、まだ自社開発などが必要だ。一方で、着工前の現地調査用途では、“寸法付きの写真撮影”くらいの使い方で許容されるため、10〜20ミリ程度の誤差は許容して、早く・安く・手軽にスキャンしたいというニーズが大きい。これなら、iPhone搭載のLiDARとフリーアプリをそのまま使うだけでも成功体験を得られる。

 「同一機器でも計測方法や加工方法によって結果が大きく変わる」「点群同士の位置合わせを全自動処理任せにすると、知らないうちに少しずつズレが生じる」――これは、精度が問われる現場で私が繰り返し痛感してきたことだ。民主化が進んだことで機材の選択肢は増えたが、その分「どの機材とどのソフトを、どういう手順で組み合わせるか」という設計力が、以前にも増して問われるようになったというのが実感だ。

 次回は、現実でよく見る建設業務を題材に挙げながら、用途ごとの選び方、留意するポイントを紹介したい。


染谷俊介 デジタルコンストラクション染谷技研 代表 / 技術顧問(複数企業)2007−2025年、竹中工務店にて建設DX分野のR&D・実務適用や本社BIM推進部門立ち上げに携わる。専門であるBIM・3D測量技術は業界標準化にも携わる。2025−2026年に総合コンサルファームであるアビームコンサルティングにて戦略コンサルマネージャー(管理職)を経験。現在は建設DX分野の技術コンサルティング業を独立開業。博士(工学)。一級建築士。事業HP http://www.dc-someya.com/

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