JR東海コンサルタンツ(JCC)が、「アセットコード」を活用したCDE(共通データ環境)の構築に乗り出している。JR東海における鉄道事業全体のライフサイクルに点在するあらゆるデータをつなぐ「デジタルスレッド」のBIMプラットフォームを確立することが、その到達点になる。アセットコードは何をもたらすのか。この取り組みを先導するJR東海コンサルタンツの大石峰生取締役ICT事業部長と小林誠ICT事業部主任、ONESTRUCTIONの宮内芳維取締役CTO、オートデスクの三瓶亮シニアアカウントテクニカルリードの4人に、その思いを聞いた。

--アセットコード化のきっかけは
三瓶 オートデスクとしてJR東海にアセットコードの有効性を伝えたのは2022年11月だった。インフラ事業者がAIM(資産情報モデル)を明確に定義すれば、EIR(発注者情報要件)として設計や施工段階で必要な情報を適切に収集できる。アセットコードはこの一連のデジタルスレッドを円滑につなぎ、効率的なワークフローを実現するキーになる。とはいえ新たなコードを構築するのではなく、既存のコードを系統ごとのコードに読み替えることが重要になるため、ビルディングスマートが提供するデータ辞書ウェブサービス「bSDD」を使った情報整理が必要と考え、国内の第一人者であるONESTRUCTIONの宮内さんに声をかけた。
宮内 三瓶さんから維持管理のアセットコードについての相談があると言われ、ONESTRUCTIONとして維持管理への対応は重点ターゲットの一つだったこともあり、興味を持った。インフラ事業者の目線から維持管理を起点にBIMデータ活用の枠組みを構築することが有効な選択であり、いつかbSDDを活用したアセットコードの構築を支援したいと考えていただけに、誘いを受けた際にはとても光栄に感じた。
三瓶 日本のBIMは設計、施工、維持管理といった各分野で分断される傾向が強い。インフラ事業者の目線からBIMの枠組みを形作ることにより、設計や施工の過程から、維持管理の段階に必要な情報を得るデジタルスレッドの流れを構築することができる。JR東海と意見交換し、アセットコードを軸にしたBIMプラットフォームの構築に向けて方向性が固まったのは23年3月ごろ、それが今回の取り組みの出発点になった。
小林 東海道新幹線は開業から62年が経過している。蓄積した情報は膨大であり、しかも部署やフェーズごとに情報が点在している。必要な時に情報がつながっていれば、より円滑に業務を進めることができる。これまでに蓄積した情報、これから蓄積する情報のルールをインフラ事業者が定義し構造化することが重要であり、それをダッシュボードのようなもので可視化できれば組織として迅速に意志決定が図れる。いまある既存のデータと将来のデータを最大限に活用するための仕組みとしてアセットコード化の整備と、それを集約するCDEとしてのBIMプラットフォームの確立が必要と考えた。
大石 まさに長年蓄積してきた情報は、施設系統だけでなく各系統にてばらばらに保管されている。これらの情報を結びつけるアセットコード化では、新たなコードをつくるのではなく、既存の資産コードを残しつつ、国際標準にも準拠して翻訳することとした。これにより過去からの歴史と新しい国際標準を融合するのが今回のチャレンジである。ONESTRUCTIONとオートデスクに協力支援してもらう形で24年度からスタートした。最初に3社で集まり、アセットコード化の有効性について意見交換した勉強会では、系統相互間での情報共有の難しさという長年の思いが解消できる期待を強く感じ、背筋がぞくぞくしたことを今でも鮮明に覚えている。
小林 実は、私自身も以前から維持管理を円滑に進めるための情報管理の重要性を強く感じていた。23年7月にJCCに出向となり、巡り合わせたように翌8月に発足したICT企画室の担当に任命された。JR東海では維持管理部門に所属し、東海道新幹線の大規模改修の仕事を担ってきた。工事の施工予算管理や出来高の資産管理などを担い、膨大な情報を集約し、分析・解析を施し共有するために可視化もしてきた。各部門から様々な情報が上がってくるため、情報管理はとても大変な作業になる。維持管理を円滑に進めるためには蓄積した情報を整え、明確なルールに基づいて情報を管理することが欠かせないと以前から考えていただけに、アセットコード化への思いは人一倍強いと感じている。
大石 22年に設置したICT企画室は、25年7月からICT事業部として活動している。アセットコードを活用したBIMプラットフォームの構築は将来に向けた重点テーマの一つに位置付けている。実は23年秋にオランダのアムステルダムで開かれたオートデスク主催の「Rail Summit」に出席した当社の担当者がアセットコードを使ったCDE構築の流れが海外で広がりつつあることを情報収集してきた。ちょうどタイミングが合うようにJR東海から新幹線の現場を熟知した小林さんがJCCに出向してきたことが、それが今につながるきっかけの一つになった。

--取り組み状況は
大石 最初の勉強会で宮内さんからオントロジー(知識体系)からbSDDにつなげる流れの解説を聞き、この技術を活用できればJR東海のインフラDXに対して、JCCとして幅広い貢献ができるとの思いが広がった。オントロジーを活用することで、既存のコードを生かしつつ個別系統内に埋没しがちな情報の共有化が可能になる。BIMプラットフォームを構築する上での大きなメリットになると感じた。
宮内 オントロジーとは概念や用語などの関係性を構造化して定義した知識の体系のようなものであり、これに基づいて構造化した情報を活用することで組織、業界、分野が違っても、指し示しているものが一緒であれば、それをきちんと定義、紐付けることができる。各系統で培ってきたJR東海の資産コードを現代の技術で再解釈してつなぐことができる点が、オントロジーの本質である。
小林 話を聞いて私自身も衝撃を受けた。JR東海は鉄道事業を進めるため、様々な系統の部門が連携している組織であり、系統同士のつながりや、他の系統がどんな仕事をしているかなどを詳細に把握することは難しい。アセットコード化は各系統で蓄積しているあらゆる資産コードをつなげる糸口になるという思いを強くした。今後、業務の省力化は維持管理業務上の重要なテーマであり、そのためには情報を円滑に共有していくことが欠かせない。アセットコード化によって、私自身の中にあった維持管理に向ける思いが確信に変わった。
大石 私もJR東海からの出向者であり、以前所属していた技術開発部においては、系統間の境界部分を技術開発の重点テーマに位置付けていた。たとえば、走行時の乗り心地対策では車両側と軌道側のそれぞれが境界部分を協力して最適解を導いていた。一方、JR東海における鉄道事業本部は施設、電気、車両、運輸といった各系統組織が盤石であり、それぞれの分野に応じて安全性・安定性や技術力の向上を極限まで追求している。このような組織では系統間での情報共有は容易ではなく、アセットコード化の試みは新たな鉄道技術のブレイクスルーを図る上でも意義深いものになると感じている。
宮内 オントロジーを構築できれば、最終的に情報の検索を円滑に行うことができる。ひとつの専門系統を確立すれば、芋づる式に必要な情報をたどることができ、それが他の系統にも広がり、将来的に維持管理全体に効いてくる。オントロジーに基づきbSDDを整理しておけば、AIのハルシネーションも抑えられる。bSDDの正確なオントロジーのつなぎ合わせによって、AIがオントロジーをたどって正確な情報に導く研究成果も発表されている。
三瓶 まさにbSDDの部分はAI活用にもつながる重要な基盤になる。現在はファイル形式のデータ管理が主流だが、今後は粒状データやAECデータモデルという形でデータを管理する時代になる。そうなるとデータ同士の関係性をAIが理解するようになり、将来的にAIを取り込みやすい状態をつくり出せる。

--成果は
小林 JCCでは24年度にJR東海からアセットコード化の検証についての業務を受注した。少しずつ検証範囲を広げながら、実務例をつくるために25年度も検証作業を進めている。並行するようにJR東海では施設系統のシステム改修を準備しており、そこにこのアセットコードの考え方を入れ込もうという動きもある。
三瓶 25年9月に米国テネシー州ナッシュビルで開かれたオートデスクの国際イベント「Autodesk University」では、小林さんと宮内さんが登壇し、建設クラウドプラットフォーム「Autodesk Construction Cloud(ACC)」を基盤にアセットコードを活用したCDE構築の取り組みを紹介し、会場に詰めかけた多くの参加者の注目を浴びた。アセットコードの管理をPoC(概念実証)まで取り組んだ点は非常にインパクトがあった。
小林 具体的には新幹線の盛土区間の一区画を対象とし、既存システムの構造とIFCをマッピングし、bSDDを使った情報連携を検証した。それを下支えしたのはONESTRUCTIONが展開するbSDDの要素技術であり、技術的な側面を宮内さんが解説した。私自身は発注者主導でデータを定義し、設計者や施工者を巻き込んで仕組み化することがこれからの日本鉄道インフラ整備には必要な要素になると呼び掛けた。
宮内 インフラ事業者は自らが運営する事業を円滑に安全に遂行するための基盤としてBIMデータを利活用できる。今回は盛り土区間の土木領域に限定したものだが、今後は機械や軌道など他の系統にも波及していく一歩になるだろう。アセットコード化はBIMの本質を捉えたものであり、他の系統への横展開することで、より効果を発揮する。
三瓶 建設ライフサイクルを通じてBIMの成果を出すためには、バックキャストで考えるべきであり、JCCがアセットコードを基盤にBIMによる維持管理の可能性を引き出した試みは大きな成果である。今後のAI活用を見据えた時にAECデータモデルや粒状データの活用が欠かせないという点も重要になる。
小林 われわれの試みは盛土区間で先行したが、この仕組みは他の系統にも広がるきっかけになる。省人化を推し進める中で維持管理に携わる人がたとえ半減しても、仕事が効率よくまわる世界を早く作らないといけない。次代を担う若手にはデータをただ集めるだけではなく、データを使って判断していく技術者になってほしい。その土台を作りたいという思いで、私自身は日々取り組んでいる。
大石 施設だけでなく電気、車両、運輸といった各系統も全て含め、各系統が横断的に同じ言語で統一化していくことが維持管理の効率化には欠かせない。アセットコード化を軸に系統と系統がつながり、そこに新たな技術開発やICT活用の可能性が出てくる。BIMプラットフォームの構築は、まさに将来につながる大きな一歩だ。
■アセットコード(Asset Code)=資産を一意に識別し分類や属性情報と関連付けて管理するコード体系
■デジタルスレッド(Digital Thread)=建設ライフサイクル全体で生成されるデータを一貫性を持って連携・継承する概念
■オントロジー(Ontology)=概念や用語の意味、分類、相互関係を体系的に定義し共有可能にする枠組み
この記事は建設通信新聞からの転載です
