国土交通省が「フィジカルAI」の活用に向けたビジョンを近くまとめる。既に自動運転やモビリティ分野では活用検証が先行するほか、製造や物流搬送などの分野でも導入への期待が高まっている。深刻な人手不足と高齢化に直面する建設業界にとっても、是が非でも実現したいキーテクノロジーであることは間違いない。
ゼネコン、専門工事会社、建築設計事務所、建設コンサルタントの中には、蓄積するあらゆる社内情報をデータベース化し、業務効率化や技術継承、さらには新たなビジネス展開につなげるDX戦略の手段として「生成AI」の活用を本格化している。長年の経験値や実績に基づく情報は貴重な事業資産になり、それを最前線の現場と組み合わせることで、より企業としての機動力は増す。
あらゆるデジタル上の情報から最適なコンテンツを導く「生成AI」に対して、「フィジカルAI」は現実世界を把握した上でロボットなどの物体が自律して行動する道筋をつくる。いわば「仮想空間」の中で動くAIと、「現実空間」に向き合うAIという点で、その存在価値は大きく異なる。
しかしながら両者は密接につながり合う。蓄積した膨大な情報の中から最適解を導く「生成AI」が基盤になることで、現実空間の中でロボットが自律して行動できる。つまり「フィジカルAI」はデジタル空間と現実空間をつなぐ橋渡し的な役割を担う。
従来のロボットはあらかじめ設定されたプログラムに基づいて行動するため、予期せぬトラブルへの対応が難しい。ロボットが自律的に行動するためには「生成AI」によるシミュレーションをもとに「フィジカルAI」が柔軟な判断を下し、その情報をロボット側が物理的なアクションとして的確に実行する必要がある。ロボティクス技術の急速な進展も「フィジカルAI」の実現を後押ししている。
国交省が2024年4月に打ち出したi-Construction 2.0では、2040年度までに建設現場の3割で省人化を実現する目標が示され、建設現場のオートメーション化を柱に位置付けている。まさに建設分野における「フィジカルAI」の進展が目標達成のキーであることは言うまでもない。2023年度からは直轄事業でBIM/CIMの原則適用にも踏み切っており、各生産プロセスをつなぐための基盤データの準備も着々と進んでいる。
インフラ分野をデジタル化するということは、調査から設計、施工、維持管理まで一貫してデータがつながり、引き継がれた情報をもとに各生産プロセスの作業が円滑に進展していくことである。国交省が取り組むBIM/CIM、ICT施工、そして現場のオートメーション化は、1つのつながった流れとなる。データを次工程に引き継ぐために後付で調整や修正をするような進め方はうわべだけのデジタル化であり、整ったデジタルデータを引き継いでいく環境整備こそ、優先すべきテーマであろう。「フィジカルAI」の実現に向けて、足元のデジタル化から取り組むべきだ。(西原一仁)
コラム 「BIM人材との向き合い方」
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