大和ハウス工業は、建設業を取り巻く社会的課題に対し、業界の未来を見据えながらBIMを中心とした建設プロセスのデジタル化を発展させ、AIと蓄積データを利活用する「次世代工業化建設」の実現に向け、米国オートデスク社と第4弾となる戦略的提携(MOU4.0)を結んだ。人財育成や海外企業との協業を通じ、日本発の新たな建設DX(デジタルトランスフォーメーション)モデルをグローバル展開する両社はどう進もうとしているか。大和ハウス工業の村田誉之代表取締役副社長技術本部長と宮内尊彰技術本部技術戦略部技術戦略第1室室長、オートデスクの稲岡俊浩アカウント営業本部副本部長にMOU4.0の狙いを聞いた。

--MOU4.0の目的は
村田 BIMという樹の幹は成長して太くなり、枝を伸ばし、葉を茂らせ、花を咲かせ、大きな実をつける。BIMデータ活用による価値創出に向けた当社の事業戦略をオートデスクのソリューションと連携することで、より大きく成長させたいと考えている。蓄積したデータを積算や見積もり、契約や出来形管理にも活用することで、より高度な対応や分析ができる。将来的には設計データがそのまま生産・施工プロセスに反映される建築モデルの構築を目指す。それがMOU4.0の根幹にある。
宮内 建設分野でAIを有効に使いこなしている企業はまだない。建設生産における情報は依然としてアナログが多く、デジタルデータに移行しきれていない現状がある。当社は生産プロセスを通してデータを一貫して使っていくワンモデルの流れを推し進めている。そのためのデータ戦略をきちんと立案し、日々急速に進化しているAIテクノロジーに対応できるシステム基盤を整え、生産活動の中に入れていく。当社はBIMのリーディングカンパニーを自負しているが、MOU4.0を機に建設AIのリーディングカンパニーとして成長していきたい。
稲岡 オートデスクは、大和ハウス工業の経営戦略上のゴールをしっかりと理解した上で、どういう側面からサポートができるか、常に見据えて活動する。グローバル展開する際に重要なのは、BIMを建設業界の共通言語と捉え、BIMを軸とした業務ワークフローを確立することである。MOU4.0では大和ハウス工業のグローバルビジネスの拡大に向け、当社のグローバルネットワークを生かして欧米やアジアのBIM先進企業とのデジタルコラボレーションも支援していく。
村田 MOU4.0では「次世代工業化建設の実現と推進」「データ戦略とAIの活用」「BIMから派生する付加価値を創出」「日本の設備業界に対するBIM支援」「海外先進企業とのコラボレーション」「建設分野におけるBIM教育の普及」の6つを重点テーマに設定した。当社が長年培ってきた工業化建築の知見と、オートデスクがもつBIM、クラウド、AIといった先進テクノロジーを融合し、設計から生産、施工のすべての工程をデータでつなぎ、持続可能な建設モデルを確立していく。
--社内意識の変化は
村田 大阪・関西万博パビリオンプロジェクトでは参加したい社員を募った。当社は2つの複雑な曲面形状の建物を、BIMをフル活用して対応し、短期間に遅延なく完成させた。建築づくりの面白さを感じながら明るく取り組む担当者の姿を通して現場で汗を流す建設業のかっこよさを感じた。BIMによる効率化を突き詰め、余った時間を別の部分に使う意識をもつ社員や現場は他にも数多く見られるようになった。
宮内 BIM導入当初、最前線の現場ではBIMによる業務変革に戸惑いがあったが、最近は自主的に使っていきたいという前向きな意識が広がっている。BIM確認申請がスタートし、2026年春からBIM図面審査、29年春にはBIMデータ審査が動き出す。プロジェクトを通じたデータ循環の流れをきちんと整備することが欠かせない。オートデスクと取り組んでいる次世代工業化建設の実現には、さまざまなルールチェンジも必要であり、個社の取り組みだけでなく、業界全体として建設業の未来を変えていく動きも必要になると思う。
稲岡 当社の調査ではグローバル展開する建設会社の82%が将来に向けて工業化を推し進めていこうと考えている。これは8割もの企業が大幅な生産改革に乗り出す意志を持っていることを物語る。工業化の実現にはオフサイトのあり方を進化させ、DfMA(製造・組立を容易にする設計手法)の実現を支えるデジタル基盤の構築が不可欠になる。企業にとってはデジタル活用の成熟度を上げないと、理想の建設生産を実現できない。まさに大和ハウス工業はここに踏み込もうとしている。
村田 当社はグローバルビジネスの拡大に向け、BIM先進企業とのデジタルコラボレーションを促進していく。BIMは世界の建設業界の共通言語であり、当社は日本発の工業化建設モデルを展開しながら、グローバル競争力の強化を図っていきたいと考えている。

--どう進めていくか
村田 毎月、社員に向けてメッセージを発信し続けている。11月にはDXやBIMを使うことで仕事の進め方が大きく変わることを記した。当社の新しい業務フローを詳細に示したソリューションマップを作成し、各プロセスのデータがどのように流れていくかを見える化した。自分の仕事が次工程にどのような影響を及ぼすかを理解してもらうことが重要と考え、技術者には自己成長を目指してほしいと伝えた。
宮内 ソリューションマップは建築、住宅、集合住宅の事業分野ごとに作成した。どの分野のプロセスも複雑で細分化している。当社はBIMを軸にして各生産プロセスのデジタル化を推し進めている。これまで個々の経験などに頼ってきたものに対し、いかにデジタル情報を活用していくか、それによって業務効率化の幅は大きく変わってくる。3つのマップには共通化する部分も多くあり、そうした共通点を社内標準として位置付けることで事業スキーム全体の最適化も図っていこうと考えている。
稲岡 BIMを軸にしたワークフローの再構築は、自分の仕事をデジタルに置き換えるのではなく、デジタルのやり方に自分の仕事を変えていくことが重要になる。ソリューションマップを示し、関係者が全体の流れや全体最適化を理解した上で、自らの領域の改善や変革を進める大和ハウス工業の試みはとても意義があり、有効な手段であると思う。
村田 11月から建築系大学への訪問もスタートした。日本国内でBIMを建築教育に取り入れている大学は当社が調べただけで十数校ある。そうした大学を卒業した当社社員にもヒアリングを実施している。実際に大学を訪問し、担当教授と情報交換をしていきたいと考えている。
宮内 BIMの教育カリキュラムはBIMソフトを使って設計や施工を学ぶような実践教育だけでなく、CGなど3次元デザイン領域なども含まれている。日本の建築教育の実態を把握し、実際にどのようなBIMカリキュラムを取り入れていくべきか、実務の視点から課題整理を進めていく。学生の生の声も聴いていきたい。
稲岡 このように大和ハウス工業とのMOU4.0は、建設業界をどう変えていくかという業界課題の部分にまで踏み込んでいる。まさにBIM教育の普及は当社にとっても重視するテーマの1つだ。
村田 BIM教育の普及には、建設業の魅力をもっと高めていきたいという私自身の思いがある。次世代を担う若者にとってデジタルなものづくりは、建設業の魅力づくりを後押しする取り組みだと考えている。大阪・関西万博プロジェクトで当社の社員が体験したように、BIMは仕事の楽しさを実感するきっかけになり、さらに設計からものづくりも含めた次世代工業化建設を突き詰めることは、新しい建設業界の魅力を伝えるきっかけにもなるはずだ。
--両社の関係性は
宮内 初めてオートデスクとMOU1.0を結んだのは18年8月になる。会社を挙げてBIM導入に踏み込んだタイミングでもあり、当時はBIMとは何かという意識付けを重要視しながら、BIM標準の確立に取り組んだ。BIM普及を進めながら、新しいデータ戦略を策定し、将来を見据えたデータ成熟度向上を図った。常に数歩先の未来をオートデスクと一緒に描きながら、信頼関係を深めてきた。パートナーというよりも、ファミリー的な存在と受け止めている。
稲岡 トップランナー精神を強く持つ大和ハウス工業は、決めたことを必ずやり遂げる実行力と、組織が一丸となって取り組むスピード感を持っている。私自身はMOUを結んだ当初から、今日までの成功を確信していた。BIM導入の時期は他のゼネコンに比べて後発だったが、一気にBIMのトップランナーへ躍り出たのは、そうした企業文化が後押ししているからだろう。
村田 MOU4.0は、これまで両社が進めてきたBIMを中心とした建設プロセスのデジタル化をさらに発展させ、データ活用を軸にした次世代の工業化建設を実現することが柱としてある。他の項目も将来を見据えたテーマ設定にしているのは、次のステージにしっかりと踏み込む当社の覚悟の表れでもある。
稲岡 オートデスクの役割の一つは、大和ハウス工業がその先のステージに踏み込むためのお手伝いをすることである。世界各国で事業展開するBIM先進企業はMMC(現代的建設手法)やDfMAを駆使し、BIMデータを建設ライフサイクル全体で活用しようと動き出している。欧州では厳しい環境規制もあり、BIMデータ戦略は計画立案に欠かせない。最前線を知ってもらうためにも、最低でも年2回は欧州やアジアのBIM先進企業との情報交換の場を提供していく。
宮内 MOU4.0では大和ハウスグループとして取り組む側面がより強くなる。特に工業化をさらに突き詰める上で、これまでゼネコンとして実績を積んできているグループ会社のフジタとの連携は重要になる。設計データを工場製作に展開し、製作部材を建設現場に搬入する一連の流れでさらに効率化を追求する。BIMを軸に大和ハウスグループのシナジーを発揮していきたい。
稲岡 建設生産におけるAIの活用も重点テーマの1つだ。建設業界向けクラウドプラットフォーム「Autodesk Construction Cloud」上に蓄積したデータは、生成AIの活用によって新たな価値を創出できるようになる。設計最適化やリスク予測はもちろん、過去のプロジェクトの知見を新たな建設計画に生かすことも実現できる。両社の知見を合わせ、次世代工業化建設の実現に向けて一緒に日本発の新たな建設DXモデルをつくっていきたい。
村田 現在、当社は次期の第8次中期経営計画を策定している。MOU4.0で掲げる次世代工業化建設の実現は、まさに柱の一つとなる。重点テーマのいくつかは成長したBIMの太い幹からしっかりと枝を伸ばし、花を咲かせ、実をつけることができるだろう。ちょうど確認申請のBIM対応も動き出す。日本のBIM普及にとっても追い風が吹くタイミングでMOU4.0を結ぶことができた。次世代工業化建設の実現に向け、当然ながら次のMOU5.0も見据えている。
この記事は建設通信新聞からの転載です