応用技術の3次元環境シミュレーションツール『まちスペース』が進化を続けている。「平面日影」からスタートした解析メニューは、2025年8月に「壁面日影」、10月に「騒音」が加わり、早ければ年内にも「ビル風」もラインアップされる。東京23区と大阪市内に限定していた解析エリアも28都市に拡大した。開発責任者の廣澤邦彦エンジニアリング本部toENGビジネス推進担当は「ネット環境さえあれば誰でも簡単に解析できる手軽さが強み。アイデア次第で活用の幅も大きく広がる。無償サービスとして提供しているだけに、まずは一度試してほしい」と呼び掛ける。

都市や地域を対象とした3次元環境解析は、シミュレーション基盤である都市モデルの整備に膨大な時間とコストがかかり、解析結果をわかりやすく表示するためのアプリケーションも提示する必要があった。山崎徹執行役員エンジニアリング本部長は「これまで都市環境は身近な課題でありながら解析のハードルが高いと思われていたが、本格調査前の初動ツールとしても効果を発揮するまちスペースの手軽さがその考え方を変える」と分析する。

2024年11月のサービス開始から1年が経過し、登録数は既に150ユーザーを超えた。建設会社、デベロッパー、建築設計事務所、建設コンサルタントなど建設系企業に加え、行政や大学なども活用している。国土交通省が推進する3次元都市モデル「PLATEAU」を基盤にしている点も、注目される要因の1つだ。
まちスペースのシステム基盤には、応用技術が22年から都市のデジタルツイン分野で協業を始めたユーカリヤのオープンソース「Re:Earth」を採用している。これはPLATEAUのビューアエンジンとしても使われている。廣澤氏は「まさにPLATEAUのデジタルツイン環境を利用できるソリューションサービスとなる」と付け加える。

この1年で解析メニューを着実に増やし、現在は「平面日影」「壁面日影」「騒音」の3機能が整備され、今後は「ビル風」解析も加わる予定だ。これまで東京23区と大阪市に限定していた解析対象エリアも、PLATEAUデータが公開されている政令指定都市や県庁所在地を中心に追加しており、現在は28都市に達する。山崎氏は「ユーザーの興味を掴んで機能を追加し、解析対象エリアも随時更新していく」と説明する。
先行した平面や壁面の日影解析では、マンションデベロッパーが購入者に対して検討住戸の日影時間を説明するツールとして活用するなど、利用者によって使い方は様々だ。解析対象範囲と平易な条件を設定するだけの作業となり、URLを共有すれば、誰でも解析結果を閲覧できる。
騒音解析では、工事などの発生音の広がりをシミュレーションし、その状況を3次元モデル上に見える化できる。発生音の種類を選択することで、利用目的に応じた分析も可能だ。音の広がりを3次元で把握することから、遮音壁などによって音がどの程度遮蔽されるかも把握できる。見落としがちなマンション高層階への影響など工事作業の音が何階まで聞こえるかも分析でき、工事現場における騒音対策のツールとしても有効という。
ビル風解析では、ビル風の流れ方をわかりやすく表示するため、矢印の方向や長さによって風向きや風速を見える化できるように設定している。騒音解析と同じように観測位置の高さも自由に設定できる。特にビル風解析では高さ200mまで解析でき、タワーマンションや超高層オフィスの計画づくりにも効果を発揮しそうだ。
解析時間は、種別や分析条件の設定によって異なるものの、騒音解析は2-3分、日影解析は5-10分となる。前橋市の幹線道路沿いの騒音解析では十数項目の音を把握するような設定をしたが、解析時間はわずか2分で完了した。ビル風については流体解析となり、安定するまでの助走計算が必要なことから、20分程度の時間が必要となる。

まちスペースのターゲットは企業や行政だけでない。むしろ無償サービスとして提供している側面からも、一般利用のニーズも高まると考えている。山崎氏は「マンション購入側が住戸の評価分析材料としてまちスペースを活用する使い方もあるだろう。使い手のアイデア次第であり、われわれが想定していないような活用方法も今後期待している。長期的な活用を見越して企業から有償で活用したいと相談されたケースもある」と明かす。
1984年創業の応用技術は、環境シミュレーションなど解析技術を軸に成長してきた。豊富な調査実績に加え、専門性を生かした独自の3次元シミュレーション力が強みになっている。廣澤氏は「3次元モデルを使って様々な解析をしているが、実際の成果は2次元図面として納品するケースがほとんどだ。われわれが提示する業務成果も、まちスペースの経験を生かして3次元で視覚的にわかりやすく表現する切り口もある」と考えている。
応用技術は、将来的にまちスペースの有償サービスも視野に入れている。山根隆弘エンジニアリング本部営業部営業統括マネージャーは「無償サービスとして多様な使い方をしてもらう中で、ユーザーのニーズを把握し、今後もシステムの拡張を続けていく。まちスペースを多様なデータと連携させることで、新たなシミュレーションへの活用につながる拡張性も強みと考えている。まずは無償サービスを前提にまちスペースを普及することに力を入れ、有償化につなげていきたい」と強調する。
建設コンサルタントの中には、社内に蓄積する情報とまちスペースを連携することで、新たなビジネス展開を検討したいと考えている企業もある。特に親和性の高いのはBIMデータとの連携だ。廣澤氏は「建築プロジェクトのBIMデータをまちスペースと連携して建物周辺の環境シミュレーションに活用することも有効な使い方の1つ」と説明する。本社を置く梅田センタービルのBIMデータをまちスペースと連携させ、周辺環境の解析も分析済みだ。
BIMデータだけではない。公開されている土壌分類図などの地理情報や、公共施設関連の情報も含め、位置情報をもつGISデータとも密接に連携する。山崎氏は「まちスペースをプラットフォームに位置付け、企業がもつビジネス上の情報を一元管理するような使い方やコミュニケーションツールとしての活用ニーズが出てくるだろう」と先を見据えている。
今後は計画建物や太陽光発電、景観、5G電波伝播、内水氾濫、人流、交通量などもメニューに加える計画だ。PLATEAUに公開されている200超の都市モデルデータをまちスペース上に随時反映しながら、解析エリアの対象も拡充としていく。3氏は「ユーザーのニーズを組み入れながら、まちスペースをさらに進化させていきたい」と意気込みを語る。
この記事は建設通信新聞からの転載です